2025/04/14

【インタビュー】ブレンダ・ブレシンとアン・クリーヴスに聞く、 『ヴェラ~信念の女警部~』の最終シリーズ撮影秘話と作品への想い

アン・クリーヴスの原作をもとに、英俳優ブレンダ・ブレシンが主人公ヴェラ・スタンホープを演じるミステリードラマ『ヴェラ~信念の女警部~』。2011年から続く長寿シリーズが、惜しまれながらもついにシーズン14で終了となる。今回は、『ヴェラ~信念の女警部~』の見どころと共に、ブレンダ・ブレシンとアン・クリーヴスのインタビューをご紹介。

人気英国ミステリーシリーズが遂に完結

『ヴェラ~信念の女警部~』は、イングランド北東部を舞台に、型破りでウィットに富んだ仕事一筋のヴェラ・スタンホープ警部が、捜査チームの部下と一緒に殺人事件を解決していく長寿ミステリーシリーズ。英国推理小説界の至宝で、『シェトランド』や『刑事マシュー・ヴェン 哀惜のうなり』の原作者でもあるアン・クリーヴスの人気小説をもとに、2011年5月に英民放ITV局で放送をスタート。シーズンが進むごとに視聴者数を増やし、同局を代表する看板ミステリーシリーズになった。

その人気シリーズがシーズン14をもって終了することが発表されたのは、2024年4月のこと。同年夏に撮影が終了。最終章は第1話「Inside」、第2話「The Dark Wives」の全2話。本国イギリスでは、2025年1月1日と2日に放送された。最終章では、デヴィッド・レオン演じるジョー・アシュワース刑事、ジョン・モリソン演じるケニー・ロックハート刑事など、お馴染みの面々が出演するほか、ケヴィン・ウェイトリー(「オックスフォードミステリー ルイス警部」)など豪華ゲストも登場。ヴェラの過去、父親との関係、刑事になった経緯など、これまで隠されていたストーリーが描かれるのも注目だ。

© ITV Studios Limited 2024 

みどころ1 英俳優ブレンダ・ブレシン演じる、人間味溢れる警部ヴェラ

『ヴェラ~信念の女警部~』の一番の魅力は、なんといっても人間味溢れるヴェラ・スタンホープ警部のキャラクターだろう。トレードマークであるカーキ色のコートと帽子を愛用し、亡き父親から譲り受けたオンボロのランドローバーで殺人現場に駆けつける。常に捜査中の事件のことを考え、衣食住にもあまり気を使わない。部下に対しても厳しく、辛辣な言葉を部下に投げかけたり、人扱いも手荒だったりもする。そんな鬼上司的な一面を持つヴェラだが、彼女が仕事熱心なのは、出世や給料のためではなく、事件の犠牲になった人々や家族を思いやり、真実を追究して社会に正義をもたらしたいという強い思いがあるから。それゆえに、チームの信頼を一身に集め、部下たちもヴェラを慕ってついていく。

そのヴェラを演じるのは、イギリスの名優、ブレンダ・ブレシン。これまでアカデミー賞とエミー賞に2回ずつノミネートされており、1996年の映画『秘密と嘘』でカンヌ映画祭主演女優賞とゴールデン・グローブ賞、英アカデミー賞(BAFTA賞)を受賞。2003年にはOBE(大英帝国勲章)を授与されている。

© ITV Studios Limited 2024

みどころ2 ストーリーの面白さ、家族や社会が抱える問題を鋭く描く

『ヴェラ~信念の女警部~』では、ヴェラが鋭い洞察力により日常生活に潜む謎を紐解いていく過程が実に興味深い。

架空の警察、ノーサンバーランド&シティ警察の捜査チームは、法医学者による検死で犯行時間や死因、凶器などが判明すると、丁寧に現場検証を行い、周囲の聞き込み、容疑者の前科や行動、CCTV(防犯カメラ)の確認など、地味ながらも丹念な捜査を開始。犠牲者や容疑者をめぐる複雑な人間関係や、人間の心に潜む入り組んだ感情や心理の描写も卓越しており、捜査と並行して、ヴェラや捜査チームのメンバーたちが展開する人間ドラマも面白い。

殺人事件の背景にあるストーリーとしてたびたび描かれるのは、ネグレクトや虐待、家庭不和など、家族関係が崩壊した機能不全家族の姿だ。ほかにも、貧困や差別、薬物摂取などさまざまな社会問題を取り上げ、現代社会が抱える闇を提起し、世の中の理不尽さを問いかける社会派ドラマ的要素も持つ。

毎回90分のなかで犯罪事件を解決する一話完結方式なので、見終わった後の充実感も良い。

みどころ3 イングランド北東部の景色

『ヴェラ~信念の女警部~』の舞台になるのは、イングランド北東部に位置するノーサンバーランド州。東は北海に面し、北はスコットランドとの国境に面する地域だ。ドラマの撮影はニューカッスルの街を中心に、ノーサンバーランド、カウンティ・ダラム、ノースヨークシャーなど北東部各地で行われた。

どんよりと垂れ込める灰色の雲、寒々しい海、果てしなく広がる森など、どこか物寂しくもある荒涼な景色が続く。国立公園や自然保護区が多く、豊かな自然に恵まれている一方で、炭鉱閉鎖による産業の変化、過疎化、若年層の流出などの問題にも直面している。この地の美しく広大なランドスケープが、ストーリーテリングの一部となっているのにも魅了される。

© ITV Studios Limited 2024

ブレンダ・ブレシンとアン・クリーヴスに聞く、『ヴェラ~信念の女警部~』の最終シリーズ撮影秘話!

『ヴェラ~信念の女警部~』シーズン14の放送を前に、ヴェラ役のブレンダ・ブレシンと原作者のアン・クリーヴスのふたりにインタビューをする機会を得た。取材は、英国映画協会が運営するロンドンの映画館「BFIサウスバンク」内のバーで行われた。全面ガラス張りの窓からテムズ河が一望できる絶好のロケーション。

ブレンダは今年で78 歳とは思えないほど若々しくエネルギッシュで、内側から輝くようなオーラを放っているのはさすがスター俳優。長年の交友関係にあるブレンダと一緒の取材ということで、アンもくつろいだ様子。リラックスした雰囲気のなかで、最終章を迎えた心境をふたりに聞いた。

© ITV Studios Limited 2024

---おふたりが初めて会ったときの印象を教えてください。

アン「私たちが最初に会ったのは……2010年、最初の台本の読み合わせのときだった」

ブレンダ「私はとても緊張していた。このドラマの舞台になるイングランド北東部のアクセントは独特でとても難しく、レッスンは受けていたけど、ちゃんと身についているのかわからなくて。それで読み合わせに行ったら、アンがいるじゃないの。“あぁ…”と思った(笑)」

アン「私も同じように緊張していた。テレビのことなんて全然わからなかったし、どうして私が読み合わせに呼ばれたのかもわからなかった。でも役者たちと一緒に座って楽しかったし、終わったらブレンダが挨拶にきてくれて、大スターの魅力に圧倒された(笑)。私自身も北東部出身ではないので、アクセントは特に気にならなかったわ」

---長年続いたこのシリーズですが、シーズン14で終了することにした理由を教えてください。

ブレンダ「もう若くはないし(笑)、家族と一緒の時間が欲しかった。14年間も夏を満喫してないことに気づいて、ちょっと夏が恋しくなって。でも、すでに『ヴェラ』のファミリーが恋しくて会いたいと思っている。いつもだったら、この時期は次のシーズンのアイデアを出す頃なんだけど、今年はもうそれがなくて寂しいわ」

アン「このドラマは私たちにとって特別な場所でもあるの。ドラマのなかに登場する北東部って、イングランドのなかでも少し寂れた地域だけど、このドラマはこの地の美しさやこの地に生きるキャラクターたちの強さを讃えるものだから」

---ブレンダは降板したことを後悔しているみたいですが。

ブレンダ「6ヵ月前に撮影が終わったの。毎日最低でも1日16時間の撮影をするから、とてもハードワークで終わるとぐったり。例えば、美味しい料理でもお腹いっぱいになったら、デザートを出されても要らないって気になるでしょう(笑)でもすぐにまたお腹がすく。1週間もすると、さあメニューを見てみましょうかという感じで(笑)。きっとこの先、そういう気持ちになって後悔するかもしれないけど、今はこの状況に満足している」

---「ヴェラ」を日本でいち早く放送している放送局ミステリーチャンネルで行った英国ミステリードラマの視聴者投票では、「ヴェラ」が二年連続の一位になりました。視聴者からも作品愛を感じるメッセージをたくさんいただいています。日本でも大変愛されていることについて、なぜだと思いますか?

ブレンダ「それは素晴らしい!ヴェラはよくいる男性の刑事ではないし、キャットウォークから飛び出してきたようなタイプの女性でもなく、より共感できる存在だからだと思う。もしヴェラが刑事でなかったら、その辺の通りを普通に歩いていると思うわ」

---視聴者のコメントで最も多いのが、ヴェラの人間性に関するコメントです。大好き、上司にしたい、という声が多いです。そのことについてどう思いますか?

ブレンダ「ヴェラは人を馬鹿にしたりしないし、人を理解しようとしている。そして誰に対しても公平である。恋愛対象に依存することもない」

アン「あらゆる世代のすべての女性は、強い女性を見るのが好きなんだと思う。ヴェラはチームを統率し、おしゃれをして着飾る必要もなく、夫が何をしているかも心配せず、子供や孫の学校の送り迎えもせずに、ただ優れた刑事であるというキャラクター。だから人気があるんじゃないかと思う」

© ITV Studios Limited 2024

---撮影の最終日はいかがでしたか。やはり思いが込み上げるものがありましたか?

ブレンダ「ええ、私だけでなく全員ね。最終日はドラマのラストシーンではなかった。プロデューサーのウィルの提案で、捜査本部のシーンの撮影になった。キャスト全員がいるから、みんなで収録の最終シーンを分かち合えるということで」

アン「私も最後の2日間の収録を見に行った。撮影後はスピーチがあったり、シャンパンで乾杯したり。それから、ニューカッスルにあるサッカー競技場のセント・ジェームズ・パークで、キャストやスタッフが集まって打ち上げパーティーが行われた」

ブレンダ「私はあまりに胸がいっぱいであまり覚えてないの。泣かないようにするのが精一杯で」

---原作小説とドラマ化では演出上異なる部分もあると思いますが、原作に忠実に描かれていると最も感じるのはどういった部分ですか?

アン「実を言うと、あまり細かいことにはこだわりはなかった。犯人が原作と違う人物だとしても気にしなかった。私にとって一番重要だったのは、キャラクターが原作と忠実なままであるということだと思う。そしてヴェラとジョーの関係も。原作のなかでは、ジョーはヴェラにとって自分の息子の代わりになる存在として描写されているけど、演じる俳優たちにそれがとても上手く理解されていたと思う。キャラクターや雰囲気などに命を吹き込んでくれて、とても満足しているわ」

© ITV Studios Limited 2024

---ご自身の性格と“ヴェラ”というキャラクターと似ている部分、異なる部分などはありますか?

ブレンダ「謎を解くのは好き。 タイムズ紙のクロスワード・クラブのメンバーなの。たとえ解決できなくても、解決しようとするのが楽しい。ヴェラと同じように、自分も公平な人間だと思う。それからユーモアのセンスもある。私の両親はとても貧しくて、あまり物は残してくれなかったけど、両親からはユーモアのセンスを受け継いだ。それは貴重だと思う」

アン「それからヴェラとブレンダは、どちらも思いやりがあって親切よ」

---日本のファンへメッセージをお願いします。

ブレンダ「ドラマを見てくれて本当にありがとう。そしてこの十数年間、応援してくれて感謝しています。最終回はアンの本『The Dark Wives(原題)』をドラマ化したもので、とてもスリルのある謎解きに、ヴェラのストーリーを織り交ぜたものになっています。いつも通りのドラマ製作の質を保っているし、素晴らしいエピソードになっていると思います」

アン「いつも応援をありがとう。最終シリーズを見るのを楽しみにしていてください」

© ITV Studios Limited 2024

【放送情報】
●ヴェラ~信念の女警部~(シーズン14)(全2話)
字幕版:5/10(土)夕方4:00 一挙放送

シーズン14でも、前シーズンで約10年ぶりの復帰を果たしたデヴィッド・レオン演じるジョー・アシュワース刑事が引き続き出演!さらに「オックスフォードミステリー ルイス警部」のケヴィン・ウェイトリー他、豪華ゲストがファイナルを飾る!

●ヴェラ~信念の女警部~(シーズン1~13)(全54話)
字幕版:5/3(土・祝)朝6:00スタート~5/7(水) 一挙放送

●お疲れ様!わが友ヴェラ~14年の歴史を振り返る(全1話)
字幕版:5/10(土)夜7:30

ブレンダ・ブレシンが「ヴェラ~信念の女警部~」の14年間を振り返る特別ドキュメンタリー。
多くの人々に愛された刑事ドラマの舞台裏に潜入し、14年間もの間変わらぬ人気を保っている理由を紐解いていく。ヴェラの生みの親である作家アン・クリーヴスのインタビューも収録。

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世界各国の上質なドラマをお届けする日本唯一のミステリー専門チャンネル。「名探偵ポワロ」「ミス・マープル」「シャーロック・ホームズの冒険」「ヴェラ~信念の女警部~」など英国の本格ミステリーをはじめ、「アストリッドとラファエル 文書係の事件録」などのヨーロッパの話題作や「刑事コロンボ」といった名作、人気小説が原作の日本のミステリーまで、選りすぐりのドラマが集結!ここでしか見られない独占放送の最新作も続々オンエア!

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名取由恵
イギリス在住ライター/翻訳者/英国ドラマ愛好家。ライフワークは英国エンタメ・英国文化・イギリス人の研究。