「特集 もっと楽しむミステリー」今回は、ミステリーの本場である英国ミステリーの魅力に迫りたいと思います!数多くの英国ミステリーの翻訳書籍を出版する東京創元社様にインタビュー。おすすめの作品もご紹介しているので是非チェックしてみてください!
(宮):東京創元社 編集部 宮澤様
(ミ):ミステリーチャンネル編集部
(ミ)英国ミステリーと言えばこの方に触れないわけにはいきません。まずは、弊社でもドラマ作品を放送しているアガサ・クリスティーについてお聞きしたいと思います。
(ミ)クリスティー作品の魅力について教えてください。
(宮)ミステリーとしての完成度の高さと、読みやすさが両立している点がすばらしいですね。完成度ということでは意外な犯人や大がかりなトリックを有する作品はもちろん、一見地味な作品でも手がかりの出し方や伏線の技巧がうますぎて何度もうならされました。平易な文章で人物を描写したり状況を説明したりするのも達者なので、真相が明かされたときに「どういうこと?」とならず即座に「そうだったのか!」と理解して驚けるのも強みです。あれだけ作品が多いのにアベレージが高い点もさすが。つくづく〈ミステリーの女王〉の称号は伊達じゃないと思います。
(ミ)〈ミステリーの女王〉の誕生は、様々な形でミステリー界や後続の作家に影響を与えたと思いますが、その影響について教えてください。
(宮)まず何よりも、本国イギリスでホームズを書いたコナン・ドイル以来の国民的作家になり、日本をはじめ世界各国でも広く売れたことで、ミステリー小説そのものの知名度向上に寄与しました。それがいちばん大きいですね。
(ミ)まさにそうですね。
(宮)作風でいうと、ミス・マープルものに代表される、小さな村や町の中で事件が起き、容疑者はみんな顔見知りという設定が定型となり、それがやがて読み心地の良さや、事件とは別のお楽しみ……料理やさまざまな趣味、主人公の仕事などにより焦点を当てた、コージー・ミステリーと呼ばれる一大ジャンルに発展しました。
(ミ)今でもそのようなコージー・ミステリージャンルが数多く作られ、人々に愛されている点から、その影響は大きかったと言えますね。
「ミス・マープル ジョーン・ヒクソン版」ミステリーチャンネルで放送
© 1987 BBC WORLDWIDE
(ミ)続いてはアガサ・クリスティー作品でも登場する“名探偵”についてお伺いしたいと思います。
イギリスのミステリーでは愛され続ける“名探偵”たちが数多く存在しますが、お気に入りの名探偵を教えてください。
(宮)定番中の定番ですが、シャーロック・ホームズははずせません。とにかくキャラが立った名探偵の代名詞であり、ジェレミー・ブレット主演のグラナダ版を筆頭に映像化作品も多数。クリスティー作品と同じく、後世に与えた影響も絶大です。
「シャーロック・ホームズの冒険」ミステリーチャンネルで放送
© ITV PLC
(ミ)ホームズからミステリー作品が好きになった、ハマった、という方は多いですよね。
(宮)私もミステリーとの出会いはホームズでした。クリスティー作品の名探偵では、なんのかんの言ってもエルキュール・ポワロがいちばん好きです。友人づきあいするには少々クセが強すぎますが、事件現場にいてくれるとたいへん頼もしい。
(ミ)ミステリーチャンネルでは根強い人気です。
「名探偵ポワロ」ミステリーチャンネルで放送
© ITV PLC
(宮)ミステリーチャンネル視聴者にはおなじみのブラウン神父もお気に入りのひとりです。平凡そうに見えるカトリックの神父さんが実は名探偵、というギャップがいいですね。小説とドラマはけっこう味わいが異なるので、もし未読でしたら比べてみるのも一興かと。
(ミ)視聴者投票ランキングでも上位に入るのですが、ブラウン神父のお茶目なところや、周囲とのかかわり方など、人間性も魅力的という意見が多いです。ぜひ原作との違いはチェックしておきたいですね。
『ブラウン神父の童心 』
著:G・K・チェスタトン 訳:中村保男
出版社:東京創元社
(宮)個性的といえば、ジャック・フロスト警部も強烈です。仕事中毒の冴えない中年警察官の、時折見せる人情家な側面にぐっときます。原作小説だととにかく強調されまくる、下品なところもなぜかチャームポイントに思えるほどに。
(ミ)強烈なキャラクターは、今ではなかなか映像で見られないことが多いので、小説ならではかもしれませんね。
『クリスマスのフロスト 』
著:R・D・ウィングフィールド 訳:芹澤恵
出版社:東京創元社
(宮)映像化されていない名探偵では、修道女フィデルマを推します。国王の妹かつ弁護士で修道女、そして勝ち気な美人と属性てんこ盛りなうえ、舞台が七世紀のアイルランドという類例のないシリーズ。前にも座談会で言いましたが映像で観てみたい度ナンバーワンです。
(ミ)映像で見てみたい要素が盛りだくさんですね!
(ミ)続いては、作家に目を向けてみたいと思います。現代のイギリスのミステリーを支える作家たち、また注目している作家について教えてください。
(宮)まずあげたいのはアンソニー・ホロヴィッツ。「名探偵ポワロ」「刑事フォイル」等の脚本家としても著名ですが、『カササギ殺人事件』(山田蘭訳)の大ヒット以降、出す小説すべてが傑作で、名実ともに現代英国ミステリー界のトップランナーと呼べる存在です。
『カササギ殺人事件(上・下)』
著:アンソニー・ホロヴィッツ 訳:山田蘭
出版社:東京創元社
(ミ)ミステリーチャンネルでもいずれも人気の作品。『カササギ殺人事件』は、ドラマの放送を観て原作を読んだ、という視聴者さんもいました。
(宮)それはありがたいですね。クリスティーの系譜を継ぐ女性ミステリー作家としては、ミネット・ウォルターズとアン・クリーヴスのふたりをおすすめします。『女彫刻家』(成川裕子訳)などで知られるウォルターズはシリーズものを書かず、数年に一回、重厚かつ渾身の力作長編を刊行するスタイルの作家で、英米の名だたる賞を総なめにしています。
『女彫刻家』
著:ミネット・ウォルターズ 訳:成川裕子
出版社:東京創元社
(宮)一方のクリーヴスは「ヴェラ~信念の女警部~」や「シェトランド」等、人気ドラマの原作となったシリーズを多数かかえている点では対照的ですが、人物描写の奥深さや謎解きの組み立ての巧さなどはウォルターズと肩を並べる実力派です。
(ミ)「ヴェラ~信念の女警部~」は弊社で長く続くシリーズですが、シーズンを経るごとに人気が高まり、今ではチャンネル視聴者の英国ミステリードラマ投票で、2年連続の1位を獲得するほどの人気シリーズとなりました。「シェトランド」も同様に人気作となっています。
「ヴェラ~信念の女警部~」ミステリーチャンネルで放送
© ITV Studios Limited 2023
(宮)2010年代にデビューした作家ではホリー・ジャクソンとM・W・クレイヴンを。ジャクソンは『自由研究には向かない殺人』(服部京子訳)で一躍脚光を浴び、売れっ子となった作家で、『自由研究には向かない殺人』三部作以降に出した作品もすべて評判となっています。
クレイヴンは英国推理作家協会(CWA)最優秀長編賞を受賞した『ストーンサークルの殺人』(東野さやか訳)に始まるワシントン・ポー部長刑事のシリーズが有名ですね。謎解きミステリーとキャラクター小説のバランスが抜群で、現代英国ミステリー最良のシリーズのひとつだと思います。
『自由研究には向かない殺人』
著:ホリー・ジャクソン 訳:服部京子
出版社:東京創元社
(ミ)並べてみると錚々たる方々で、今後の作品も楽しみです。
(ミ)今度は少し角度を変えまして、英国ミステリーならではの特徴や、英国ミステリーによくあるトリビアや小ネタがありましたら教えてください。
(宮)大学関係者が作家になることが多いですね。教授や講師が兼業で小説を書くケースが主ですが、学生時にデビューした人や、D・M・ディヴァインのように事務局で働いていた人も。そのため、大学が事件の舞台になることが非常に多い。特に名門であるオックスフォード大学やケンブリッジ大学はしょっちゅう実名で登場します。
(ミ)確かに、大学が舞台というのはよく目にしますね。
(宮)あとは、伝統行事や祝祭日を取り上げることが多いです。イースター(復活祭)は日本でも知られていますが、あまりなじみがないものだとガイ・フォークス・ナイト(11月5日)やボクシング・デー(12月26日)など。
スポーツはクリケットが大人気。同じく伝統競技である競馬やサッカーは日本でも定着しましたが、クリケットの盛り上がりはイギリス(とインド)が圧倒的です。すみません、ルールが覚えられなくて作品に登場するたび調べています。
(ミ)その国ならではのことが作品を通して知ることができるのも英国ミステリードラマの醍醐味ですよね。
(ミ)最後に、おすすめの英国ミステリー小説をご紹介いただけますか?
(宮)では3作ご紹介します。シヴォーン・ダウド『ロンドン・アイの謎』(越前敏弥訳)は、ロンドン名物の大観覧車ロンドン・アイのカプセルの中から人が消えるという謎がとても魅力的。探偵役の姉弟はともに10代で、児童向けに書かれた作品ですが、大人が読んでも楽しめる、しっかり作られたミステリーです。ご家族で読むにももってこいではないでしょうか。
『ロンドン・アイの謎』
著:シヴォーン・ダウド 訳:越前敏弥
出版社:東京創元社
(宮)フランシス・ハーディング『嘘の木』(児玉敦子訳)も少女が主人公ですが、こちらの時代設定は19世紀末で、ひとつまみのファンタジイ要素が効いた傑作です。人のついた嘘を養分とし、真実を見せる実がなる不思議な植物「嘘の木」を武器に、博物学者だった父の死の真相を突き止めようとする少女フェイスの奮闘を見届けてください。
『嘘の木』
著:フランシス・ハーディング 訳:児玉敦子
出版社:東京創元社
(宮)ジル・ペイトン・ウォルシュ『ウィンダム図書館の奇妙な事件』(猪俣美江子訳)は名門ケンブリッジ大学のカレッジを舞台に、学寮づきの保健師イモージェンが探偵役となる逸品。設定も文章も、これぞ正統派の英国ミステリー、と読んでいてうれしくなってしまうシリーズの第一作です。
『ウィンダム図書館の奇妙な事件』
著:ジル・ペイトン・ウォルシュ 訳:猪俣美江子
出版社:東京創元社
(ミ)幅広い年代で楽しめる作品からファンタジイ要素のある作品、正統派のミステリーまで、バラエティに富んだラインアップですね。ぜひ手に取って英国ミステリーの世界にどっぷりつかりたいです!
今回は“英国ミステリーの魅力に迫る”というテーマで、東京創元社様より、英国ミステリー愛にあふれるお話をお伺いすることができました。
ここで登場した作品(小説・ドラマ)でまだ読んだことがない、観たことがない作品がありましたらこの機会に手に取ってみてはいかがでしょうか。
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次回の記事もお楽しみに!
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