ミステリーチャンネルでは、「年間特集 世界のベストセラー推理小説」と題して、毎月一作品ずつ、世界各国のベストセラー推理小説を映像化した作品を放送していきます。今回は、その第1弾『カリートス 地中海の犯罪辞典』と、第2弾『ミス・メルケル~元ドイツ首相の探偵日記』の見どころをご紹介し、世界のベストセラー推理小説の魅力に迫ります!
コナン・ドイル原作の『シャーロック・ホームズの冒険』やアガサ・クリスティー原作の『名探偵ポワロ』や『ミス・マープル』、G・K・チェスタトン原作の『ブラウン神父』などなど、これまで数多くのベストセラーとなった推理小説がドラマ化されてきました。
小説を映像化するという動きは近年でも非常に盛んであり、アンソニー・ホロヴィッツの『カササギ殺人事件』やコリン・デクスターの『主任警部モース』など、原作者が積極的にドラマ制作にも参加している作品も多いですね。
言葉の選び方や文章の紡ぎ方に作者の個性がキラリと輝く小説と、映像ならではの表現技法で視覚・聴覚からも作品に没入できるドラマにはそれぞれの魅力があります。
ある作品がドラマ化されると原作に触れたいと感じる方が増え、結果的にその作品の魅力がさらに広まっていく…という相乗効果で、原作ファン・ドラマファンどちらも嬉しいことが多いというのがベストセラー小説のドラマ化の魅力といえるのではないでしょうか。
今回は、2月放送の第1弾『カリートス 地中海の犯罪辞典』と、3月放送の第2弾『ミス・メルケル~元ドイツ首相の探偵日記』の見どころを紹介していきます。どちらも日本初上陸の新作ですよ!
© Palomar 2023
はじめにご紹介するのは、2024年9月にイタリア公共放送局RAIにて放送されたばかりの新作ドラマ『カリートス 地中海の犯罪辞典』。
ギリシャ・アテネを舞台に、アナログ人間の警視カリートスが複雑に入り組んだ殺人事件の解決に挑むクライム・ミステリーです。
本作の原作者であるペトロス・マルカリスは、『ユリシーズの瞳』(1995)や『永遠と一日』(1998)など、ギリシャを代表する映画監督の一人であるテオ・アンゲロプロス監督が手掛けた映画に脚本家として参加した経歴を持ち、実は本作の第一話にカメオ出演も果たしております!作中、明らかにエキストラっぽいのに唐突にフォーカスされる紳士がおりましたらぜひご注目ください。
本作の主人公カリートスは、アテネ警察殺人課の課長にして警視の肩書を持つベテラン捜査官。コンピュータの操作はもっぱら部下に任せ、ホワイトボードと書類、現場に赴く地道な捜査を好む昔気質な人物です。
警察署内外からも信頼の厚い尋問のプロであり、容疑者から自白を引き出すのが誰よりもうまいと称される彼ですが、証言に矛盾を見つけたときには、どんなに時間がかかっても必ず真相を突き止めるという固い信念の持ち主でもあります。
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コスタス・カリートス警視を演じるのは、イタリア・ローマ出身の俳優ステファノ・フレージ。
お先真っ暗の教授たちが再起をかけて麻薬密造に突き進むトンデモコメディ映画『いつだってやめられる』シリーズ三部作に出演していることで知られています。ミステリーチャンネルでも放送された、ウンベルト・エーコによる小説をドラマ化した『薔薇の名前』にも出演していましたね。
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第一話では、住宅街でアルバニア人の男女が殺害される事件が発生します。容疑者も逮捕され、事件解決は秒読みと思われた矢先、警察によく出入りする女性記者が誰も知りえなかった情報を公開。カリートスの捜査は振り出しに戻ることに。情報提供に応じることなく、更なるスクープをカリートスに予告した記者でしたが、なんと彼女も殺害され、状況はさらに混迷を極めていきます。彼女のスクープとはなんだったのか?二件の事件は一体どのようにつながっているのか?新情報が見つかる度に新たな展開を見せる捜査から目が離せないエピソードです。
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本作の魅力は何といっても、全編ギリシャ・アテネで撮影された本格的なギリシャ・ミステリーというところです。カリートス警視をはじめとする魅力的なキャラクターや、二転三転するストーリー構成など作品としての完成度も非常に高い一方、現代のギリシャが直面している問題も丁寧に描かれています。移民問題や、2000年以降にかの国が直面してきた財政問題、第二次世界大戦後に起こった内戦や、70年代の軍事政権時代のエピソードなど、歴史が息づく美しい地中海の国というイメージだけではないギリシャを巧みに切り取っており、現代のヨーロッパにおけるギリシャの複雑な立ち位置を窺い知ることができると思います。
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続いてご紹介するのは、2023年と2024年にドイツで放送された『ミス・メルケル~元ドイツ首相の探偵日記』です。
原作者であるダーヴィット・ザフィアは数多くのテレビドラマの脚本を手掛けてきた脚本家であり、彼の代表作であるコメディドラマ『Berlin, Berlin(原題)』は、ドイツで最も権威のある「グリム賞」や「ドイツテレビ賞」に加え、「国際エミー賞」を受賞しました。小説家としてもキャリアをスタートさせており、第一作目である『あたしのカルマの旅』はドイツで200万部を突破!日本を含む30か国以上で翻訳されています。
(参照:https://www.sunmark.co.jp/detail.php?csid=3326-7)
本作は、首相を引退したアンゲラ・メルケルが、もしも田舎での隠居生活を送りながら素人探偵として殺人事件を解決していたら…というパロディ作品となります。現実世界でも2021年の12月をもってドイツの連邦首相の任を辞し、政界からも引退したメルケル元首相ですが、16年という長い任期を務めたことからドイツの首相といえばこの方、という印象を持つ方も多いかもしれません。
本作でアンゲラ・メルケルを演じるのは、1979年製作の映画『ブリキの太鼓』などで知られるカタリナ・タルバッハ。2013年にドイツで放送されたドラマ『Der Minister(原題)』でもメルケル首相をモデルとした役で出演した彼女が、本作で再び演じています。
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第一話では、首相を引退したアンゲラ・メルケルが、科学者の夫ヨアヒムと愛犬のヘルムート、そしてボディガードのマイクとともにウッカーマルク州の小さな町へ移り住むところから始まります。美しい森のコテージで思う存分散歩やお菓子作りに精を出しながらも、刺激のない日々を過ごしていたある日、招待を受けて赴いた古城のお祭りで、城主であるフィリップ・フォン・バウゲンヴィッツ男爵が遺体で見つかる事件が発生。事件を担当する刑事があまりにも無気力であること、そしてベルリンに置いてきたはずの好奇心と闘志に火が付いたことで、メルケルはボディガードのマイクを連れて自ら事件の捜査をすることに…。
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ドイツで30年以上政治の世界に身を置いていたメルケル元首相が主人公、というだけあり、作品のあちこちでメルケル氏の実像に迫ったセリフや描写があり、長い政治人生を生きてきた彼女ならではの苦悩を感じさせるものも多いです。今のドイツしか知らない若い世代も、メルケル氏と同じ時代を生きてきた世代も、それぞれのドイツの視聴者にとって感じるものがあったのではないかなと思わせる作品でした。
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とはいえドラマ自体はコージーミステリーな雰囲気で、殺人も起きますし血も多少登場するものの、どれもマイルドな表現なのでお子さんと一緒に観ても大丈夫だと思います。
クスッと笑えるシーンも多く、主人公のメルケルをはじめ、夫のヨアヒムやボディガードのマイクも魅力的なキャラクターとして描かれており、居心地の良いミステリーに仕上がっています。
そして何よりも愛犬ヘルムートの愛くるしさは、必見です!パグ好きなら絶対に観ておきましょう。
ちなみにヘルムートというわんこにしては圧のある名前は、1990年に東西ドイツの再統一を成し遂げたヘルムート・コール元首相からとられた名前です。残念ながら、現実のメルケル元首相は犬が得意ではないことで知られています。小説とドラマ版での改変部分と言えますが、謎解きミステリーの貴重な癒しポイントとして語らずにはいられなかったので紹介させていただきました。
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『ミス・メルケル』というタイトルの通り、明らかにアガサ・クリスティーの『ミス・マープル』を意識している作品であり、作中でも「まるでミス・マープルみたいに」というセリフとともに、素人探偵として活躍するメルケルの活躍が楽しめます。小さな体に信じられないパワーを秘めた老婦人が、周囲の心配や侮りをよそに自由に捜査を進めて真実を紐解いていく物語が好きな方には非常にオススメの作品ですよ。
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今回は、ミステリーチャンネル年間特集「世界のベストセラー推理小説」より、新たに日本初放送となる二作品をご紹介しました。
日本でもまだ珍しいギリシャ・ミステリーである『カリートス 地中海の犯罪辞典』は、これからさらに多くのギリシャ産のミステリーが日本に上陸したらいいなと期待してしまう高クオリティな作品でした。
そして日本でも誰もがその名を知っているドイツの元首相を主人公にした『ミス・メルケル~元ドイツ首相の探偵日記』は、実在の人物をモデルにした大胆な作品でありながら、政治的な話題をカジュアルに盛り込んだ、エンターテインメント性に富んだ作品だと思います。
皆様が海外のミステリー作品を新規開拓するきっかけにしていただけると嬉しいです。
(文:うりまる)
【放送情報】
●カリートス 地中海の犯罪辞典(全4話)
字幕版:2/23(日)夕方4:00 一挙放送
「カリートス 地中海の犯罪辞典」番組公式サイト
●ミス・メルケル~元ドイツ首相の探偵日記(全2話)
字幕版:3/2(日)夕方4:00 一挙放送
「ミス・メルケル~元ドイツ首相の探偵日記」番組公式サイト
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