2023/01/23

【視聴後の余韻がたまらない!】『リドリー~退任警部補の事件簿』は視聴後にじっくりと思考に浸りたくなる刑事ドラマだった

『ヴェラ~信念の女警部~』『バーナビー警部』の制作陣が手掛ける最新ミステリーが登場!かつての部下をサポートするべく、相談役として帰ってきた退任刑事リドリーを主人公に、複雑に入り組んだ事件を紐解いていく2話完結型の刑事ドラマ。観終わった後にじんわりと響くものがある本作の魅力をご紹介します。

【第一話「やり残した事件」あらすじ】

愛する妻と娘を失い早期退職した元敏腕刑事アレックス・リドリーは、町から離れた森で起きた殺人事件をきっかけに、コンサルタントとして再び警察署へ呼び戻される。殺害されたのは、14年前に起きた女児誘拐事件の際に、当時現役だったリドリーが厳しく追及した容疑者の一人であった。複雑に入り組んだ事件を紐解くべく、昇進したかつての部下キャロルと共に、リドリーは再び犯罪現場に足を踏み入れることに。
まるで人付き合いを避けるように、家族と共に森の奥でひっそりと暮らしていた男は、一体なぜ、誰によって殺害されたのだろうか…?

【硬派な刑事ドラマ×深い人物描写】

『ヴェラ~信念の女警部~』や『バーナビー警部』などの硬派な刑事ドラマを手掛けてきた制作陣による2話完結型の本作。陰惨な事件の裏側に潜む人間関係を丁寧に紐解いてゆく刑事たちの活躍を描き、今もなお色褪せない人気を誇る英国ミステリーを生みだしてきたその手腕は、本作でも遺憾なく発揮されております。捜査によって浮き彫りになってゆく、登場人物の抱える痛みや苦しみ、憎しみ、そして愛…。胸が痛くなるほどの鮮烈な感情に揺れることなく、再び秩序と平穏をもたらすため戦う男、リドリーの物語です。

本作の主人公アレックス・リドリーは、かつては警察署内でも有名な敏腕刑事でしたが、悲劇的な事件で愛する妻と娘を失い、早期退職を願い出ました。酒に溺れて自暴自棄になるわけでもなく、深い悲しみの中でただただ空虚な日々を過ごしていた彼を再び事件現場へと呼び戻したのは、かつての部下キャロルでした。

第一話では、リドリーが警察署を去ったのちに警部補へと昇進したキャロルが自分の担当する事件に、リドリーの経験と知恵が助けになると思うや否や、すぐさま彼をコンサルタント(相談役)のポジションへと推薦します。リドリーの現役時代には一度も褒められたことがなかったと冗談交じりに溢すキャロルですが(リドリーは否定)、立場が逆転した現在でも彼のことを尊敬している気持ちは変わりません。そして、協力を求められて警察署へとやってきたリドリーにとってこの事件の被害者である男は、忘れようもないほど深く刻みつけられた苦い記憶を呼び起こす存在でした。

14年前に起きた女児誘拐事件。リドリーが最も厳しく追及した容疑者は逮捕の手を逃れ、まったく別の新たな容疑者が逮捕されたことで事件は一応の終息を迎えましたが、結局少女が母親の元へ帰ることはありませんでした。森の中で殺された男は、リドリーの中で「終わってはいなかった」事件との関わりを強く感じさせたに違いありません。しかし、14年もの年月が経ってから再び事件の関係者を巡って対話をすることは、彼らが必死に蓋をしてきたものをこじ開けることになります。

決して癒えることのない傷を抱えて生きてきた者。
非難や中傷を恐れて真実を口にできなかった者。
そして、自分の利益のためにわざと口をつぐんだ者。
彼らの古傷を開いていくことが必ずしもプラスに繋がることばかりではないことは百も承知で、それでもリドリーとキャロルはどんな小さな違和感も見逃さずに真実を追い求めていきます。

人間の抱える細かな心の揺れを逃さず丁寧に描きながらも、感情に惑わされることなく正義を追及する手を緩めない刑事たちの姿に引き込まれること間違いなしです。

【主演エイドリアン・ダンバーの哀愁漂う演技と歌唱力】

そんな硬派な刑事ドラマの魅力が詰まった本作。主人公アレックス・リドリーを演じるのは、イギリスのクライムドラマ『ライン・オブ・デューティ 汚職特捜班』(2012-2021)のエイドリアン・ダンバーです。『主任警部モース』や『フロスト警部』、『ミステリー in パラダイス』などなど数多くの人気英国ドラマにゲスト出演もしているため、「あっ」と気が付く方も多いのではないでしょうか。

さて、刑事ドラマの王道としての魅力が詰まっている…と前の章で厚く語りましたが、実は本作にはほかの刑事ドラマではまず馴染みのない大きな特徴が一つあります。

それが、各エピソードの最後(つまり偶数話のラスト)にて、主人公リドリーがジャズバーのステージで静かに歌を歌うシーンなのです。

事件が解決すると、愛する亡き妻の親友が経営する思い出溢れるこのバーで歌うリドリー。誰かに披露するというよりも、自身の心の中で溜まった想いを歌に乗せて押し流すような歌唱シーンは、事件の裏に潜むものまでひっくり返して正義の置き場所を探す中で、出会った様々な真実に対する想いをリドリーと共に振り返るような、そんな印象的な演出となっています。ぜひ、じっくりと聞き入っていただきたいです。

エイドリアン・ダンバーは、過去に主演を務めた映画『ヒア・マイ・ソング』(1991)でも歌を披露しています。一夜の興行で信用を地に落としてしまった若き興行師が、再起をかけて伝説の歌手を探すべく、荒涼としたアイルランドの地を旅する…という心温まるコメディ映画で、エイドリアン・ダンバーは共同脚本も務め、作中では2曲披露しています。こちらも気になる方はぜひチェックしてみてください。

ちなみに、アメリカの深夜トークショー『レイト×2ショー』のライブパフォーマンスにサプライズで参加したことも。ルイ・アームストロングの名曲「この素晴らしき世界」を歌うエイドリアン・ダンバーがあまりにも渋くカッコイイので、一度こちらも検索してみてください(めちゃカッコイイので)。

【溢れるほどの悲痛があるからこそ、もう一度、と思える】

1つの事件が起きたとき、そこには原則として加害者と被害者がいます。そして、何が起きたのか、誰が被害を受けて、誰がその責任をと問われるべきなのかを明らかにするために警察が必要とされます。すべては、人が傷つけられ、時には命さえも奪われるような混沌とした状況に、再び秩序を取り戻すという使命があるからです。

しかし、ドラマの中では事件はいつも複雑です。事件に関わる誰もが何かを求めています。それはお金や権力といった分かりやすいものから、平穏や安心という保障できないもの。そして時には、あるのかどうかさえ証明できない、愛なんて不確かなものまで。刑事たちがしなければならないことは、「罪とみなされる行為をしたのは誰なのか」を特定する、というシンプルな任務のはずなのに、なぜやったのかを調べれば調べるほどに関わった人間の数が増えていき、状況はどんどん複雑になっていきます。

ミステリーというのは、どうしても「犯罪が起きていること」が前提となっていることが多いジャンルであるために、ドラマを最後まで見終わったときに残るものが、正義が果たされたという爽快感ばかりではないこともしばしばです。時には、「事件の解決」が「登場人物の幸せ」とは全く結びつかない結果に終わる…なんてこともあります。

本作もまた、甘い展開などほとんどない硬派なドラマではありますが、リドリーが歌う最後のシーンでは、空を覆い隠す雲の切れ間から、ほんの少しだけ太陽が顔をのぞかせているときのような、少しの温かさと穏やかさがうかがえます。

愛する家族に先立たれ、彼女たちが生きた証をなぞりながら、それでも少しずつ足を進めるリドリー。それは前に進むため、というよりもその場に沈んでいかないための足踏みでしかないかもしれませんが、誰よりも癒えない傷を抱えて生きるリドリーだからこそ被害者に寄り添うことができ、複雑にからまった事件を紐解いていけるのかもしれません。

だからこそ、彼は「リドリー刑事」ではなく、「相談役のリドリーさん」として再び事件に関わることを決意します。
傷ついた人の目でしか見つけられないこともある…という確かな温度のある情熱をもって。

長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございます!
硬派な刑事ドラマが好きな方はもちろん、登場人物たちの抱える感情や複雑な人間関係を丁寧に紐解いていくドラマが好きな方にもおすすめです。エイドリアン・ダンバーの魂が震えるような歌も、ぜひご堪能ください!

 

[文:瀧脇まる(うりまる)]

 

【放送情報】
リドリー~退任警部補の事件簿(全8話)
字幕版:2月11日(土)夕方4:00
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画像クレジット:© West Road Pictures & A3MI