ミステリーチャンネルのメルマガ会員限定イベント「ミステリーと食を楽しむ」トークイベントが2024年12月13日(金)に東京・神田のサロンクリスティで開催されました。料理研究家であり、料理探偵として数々のミステリー作品に登場する料理のレシピ再現なども手掛ける貝谷郁子先生がご登壇!クリスティー作品に登場する数々の美食やお茶に関する先生のトークを、当日限定のスペシャルメニューとともに楽しむ貴重なイベントの模様をご紹介します!
(会場にはデビッド・スーシェさん直筆サイン入りポスターが!)
初めて作品を読んだときからポワロに対して、「とても変わった飲み物の好みをしている人物」という印象を受けたという貝谷先生。『もの言えぬ証人』では朝食にチョコレートを飲むことを習慣にしていることがヘイスティングスの視点によって語られ、『象は忘れない』では「コーヒーはいかがですか」とオリヴァ夫人に勧めた直後に、「それとも赤スグリか、黒スグリのシロップは?」とつい聞いてしまう…。とにかく甘い飲み物を好むポワロですが、そんな彼から風変りなドリンクを勧められたヘイスティングスやジャップ警部が、その後にビールやウイスキーといった「普通」の飲み物をありがたそうに飲むシーンが、貝谷先生のお気に入りのシーンなのだそうです。
そんな彼の登場作品の中から、特に料理の描写が印象的な作品として貝谷先生が最初に挙げたのは、『マギンティ夫人は死んだ』。冒頭にポワロがレストランでの至福のひと時を過ごした後に「やれやれ人間が、一日に三度しか食べられないなんて」と溢すシーンに、美味しいものを食べるのが何よりも楽しみなポワロの個性がよく表れていると感じたそう。とにかく本作は食事のシーンが多く、スペンス警視との食事ではステーキやフレンチフライといった豪勢な食事を楽しむ一方、調査のために赴いた下宿先のおかみさんの料理があまりにも悲惨で、ポワロがほとほと参ってしまうような描写も。しかし、そんなおかみさんの人柄を憎からず思ったポワロが、「今度オムレツの作り方をお教えしましょう」と優しく言うシーンは、作品の発表当時の社会を考えると、非常に新鮮に感じられたそうです。
ほかにも、飛行機内での殺人事件を描き、簡単な機内食からはじまり、キノコ入りオムレツや舌平目のノルマンディ風といった豪華なフランスのランチまで登場する『雲をつかむ死』や、同じく舌平目やカツレツが登場する『葬儀を終えて』など、作中にさりげなく美食が登場する作品を紹介された貝谷先生。
「今度ポワロものをお読みになるときは、ぜひ飲み物にも注目してみてください」。ワインやブランデーを嗜むことはあれども、食の好みが極めて正統的であるのに対して、飲み物に関しては独特の嗜好をもつポワロのキャラクター性に改めて思いを馳せるトークでした。
(貝谷郁子先生)
イギリスのティータイムには、スコーンとマフィン…だけではありません。様々な作品で重要な役割を果たしているのが、サンドイッチなのです。薄くスライスしたパンにキュウリを挟むようなシンプルなものが有名ですが、今回のイベントに合わせて、貝谷先生はフィッシュサンドに再注目。サンドイッチの存在感が大きい作品を三つ紹介してくださいました。
地元の新聞に殺人の予告が掲載されたことから始まる『予告殺人』では、パーティーのために屋敷の女主人が家政婦に対して、スコーンやケーキとともに「サーディンのサンドイッチをお願いね」と、品目を名指しで伝えるシーンが登場します。フィッシュサンドがより重要な意味を持つ『杉の柩』では、主人公が瓶入りのフィッシュペーストを使ってサンドイッチを作ります。主人公が商店で購入したペーストというのが、「サケとアンチョビ」「サケとエビ」でした。その後、主人公が作ったサンドイッチを食べた女性が死亡し、主人公は殺人の第一容疑者として窮地に陥ります。裁判のシーンでもサンドイッチをどのように作ったのか、自分(主人公)は食べたのか、ペーストの瓶はどうしたのか、などなど非常に細かいところまで追求され、サンドイッチに注目が集まった作品です。
列車内での殺人を目撃したという友人のためにミス・マープルが真相を究明する『パディントン発4時50分』では、フィッシュペーストのサンドイッチが終盤に登場します。犯人の所業を明らかにすべく、お茶会に呼ばれる形でやや強引に屋敷に乗り込んだミス・マープルが、サンドイッチを口に入れて「魚の骨が…!」と苦しんで見せるシーンは非常に印象的ですね。貝谷先生いわく、あのシーンを作り出すためには「なんでもないお茶の時間に気軽に口にできるようなものでなければなりません。それが可能なのはフィッシュサンドイッチだけでしょう」とのこと。あの展開のためには、ティータイムに呼ばれた老婦人の喉にうっかり骨が刺さってしまうような魚のペーストでなければならないということですね。さりげなく登場しているようにみえて、実は非常に計算された存在だったのかもしれません。
今回のイベントのために貝谷先生が『杉の柩』を参考に制作されたのが、スペシャルメニューを彩る一品でもあるサーディンペーストのサンドイッチです。普段のレシピ再現のお仕事では、原作に作り方が明記されていれば忠実に再現し、ない場合には時代背景や作り手の性格なども加味して再現に挑むという貝谷先生。今回レシピに使用したオイルサーディンは、日本でも300円ほどで購入可能で、余った場合には冷凍保存も可能という使いやすさが魅力の食材であり、ペーストにしやすいこともあって選ばれたそうです。
数あるクリスティー作品の中でも、貝谷先生が特に「紅茶なしには成立しない」と強調されたのが、『復讐の女神』『スリーピング・マーダー』『パディントン発4時50分』の三作品です。裕福な知人から依頼を受けて、どこに謎があるのか分からない状態から冒険に繰り出していく『復讐の女神』は、ミス・マープルの特徴が特に強く出ていると語る貝谷先生。「お茶に呼んでもらうことによって、謎に分け入っていく」手法をとるミス・マープルが、最後にはコーヒーやミルクに毒を入れられて危機一髪…というスリリングな展開まで、作品とお茶の関連性を先生に強く印象付けた作品だったそうです。
貝谷先生もお気に入りの作品の一つ『スリーピング・マーダー』でも、ミス・マープルはお茶に呼んでもらい、お庭を褒め、茶器を褒め、お菓子を褒め、家具を褒め…とにかく褒めることで相手のガードを緩め、さりげなく昔の話を聞き出していきます。そこが、ミス・マープルがポワロとは全く異なる役者である点だそうで。外国人であり、探偵でもあるポワロが「事件の捜査でやってきたイレギュラーな存在として」話を聞くのに対し、あくまでも「誰かのおばさん」として登場するミス・マープルは、より巧みに話を聞き出す技術を求められるはず…。お茶の時間を駆使した聞き込みと最後の大立ち回りをファンとして長年見つめてきた貝谷先生は、世間一般の「落ち着いた老婦人」という評価とは異なる印象を抱くようになったそうです。『パディントン発4時50分』では、真相解明のためにスーパー家政婦のルーシーを送り、その後自分もお茶の席に乗り込んでいくミス・マープルの姿が描かれていますが、椅子に座って謎を紐解くだけではない、活動的な一面もあると感じるようになったとのことです。
イギリスの人々にとっては、誰もが馴染みのある「お茶の時間」。ゆったりとした時間が流れ、刺激的なことなど何もないように見えるあの空間こそが、実は金にも勝る秘密が行き交う極秘の会合だった…というのは、クリスティーファンにはおなじみの認識かもしれませんね。
今回のイベントで用意していただいたスペシャルメニューをここでさらっとご紹介!
先ほども少しだけ触れたサーディンペーストのサンドイッチは、サーディンとニンニクの風味が効いていて、あえて生のタマネギを使用したことで食感がアクセントに。日本でよく口にするツナサンドとはまた異なる味わいで、気が付いたら無くなっていました…(笑)。マカロニグラタン(『ABC殺人事件』)は、濃厚なホワイトソースとチーズが絡むマカロニが食べ応え抜群!トッピングには、ミステリーチャンネル公式キャラクター「ミスティー」のシルエットをかたどった紫芋のスライス。ついつい最後までとっておきたくなる可愛さでした。
『死との約束』に登場し、実在するホテルでもあるサヴォイホテルのシーフードカクテルは、小ぶりなグラスに細かくカットされた野菜とエビの彩りが豊かなお料理で、ソースがピリリと辛く、野菜のシャキシャキとした食感が楽しい一品でした。英国作家の小説を読んでいれば一度は目にする「ご馳走」といえば、ローストビーフ&ヨークシャープディング(『ポケットにライ麦を』)。人生初のヨークシャープディングにワクワクが止まりませんでした。ずっしりとした生地のヨークシャープディングの上に、大き目にカットされたグリル野菜が彩りを添え、さらにローストビーフがこぼれんばかりに乗せられた一品です。クリスマスらしい華やかな彩りで、大き目に切った一切れにお肉も野菜も少しずつ乗せるというわんぱくな食べ方をしてしまいました。
デザートには、『クリスマス・プディングの冒険』にちなんだ、鮮やかな赤のマカロンとクリスマス・プディング。マカロンはラズベリーの甘酸っぱさを楽しめるジャムが入っており、クリスマス・プディングの中身も、もちろん例のあの宝石にちなんだ秘密が隠されていました。
クリスティーファンには嬉しいスコーンは、自家製ジャムとクロテッドクリーム、はちみつという三種類のサービス付き。半分に割って、ジャムとクリームをつけて食べて、はちみつも食べて…と夢中になっているうちにお皿はすっからかんでしたね。
上にたっぷりとクリームが載ったマフィンは、一口かじるとその独特の風味に少し驚きました。なんと『殺人は容易だ』に登場し、アガサ・クリスティーも好んだという茶葉「ラプサンスーチョン」が入っていました。実は参加者全員に、ラプサンスーチョンの紅茶も振る舞われており、松の燻製香が特徴的なこの紅茶は、鼻に抜ける独特の香りが一度嗅いだら忘れられない一杯でした。会場の皆さんの間でも好みが分かれていましたが、個人的にはちょっと癖になりそうな風味でしたね。
実は参加者の皆様には抽選券が入場時に配布されており、イベントの最後では貝谷先生によるくじ引きが!クリスティーグッズや、ミスティーTシャツ(かわいい!)がプレゼントされました。
また、来場者全員に、株式会社日本ホールマーク様よりギフトカードのセット、そしてミステリーチャンネルの公式グッズ(コースターと付箋付きブロックメモ)がプレゼントされました!
また、貝谷先生考案のサーディンペーストのサンドイッチのレシピもいただきましたので、こちらでもご紹介させていただきます!ここでしか手に入らない貴重なレシピ、ぜひ作ってみたいですね。
今回は、料理研究家&料理探偵であり、ご自身もミステリーファンでいらっしゃる貝谷先生とともに、クリスティー作品の美食に思いを馳せる素敵なイベントに参加してきました。読んでいるとお腹が空いてくるほどに食べ物の描写が巧みな文章、というと、誰しもなにか思い当たる作品があるのではないかなと思います。「飯テロ」なんて言葉が存在する前から、思わず読者のお腹が鳴りだしてしまう作品は数多くあり、クリスティー作品の中にもそうした作品がある、ということを今回のイベントをきっかけに知った方もいらっしゃるかもしれません。サロンクリスティでは今回ご紹介した期間限定メニュー以外にも、ランチやディナーなどの営業もされているそうなので、興味を持った方はぜひ一度チェックしてみてください。そして、クリスマスが近づくこの季節に、思わずご馳走の香りがしてきそうなミステリー作品を一つでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
(文:うりまる)
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