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ディフェンダーズ法律解説事務所
ディフェンダーズ法律解説事務所
さまざまな法律知識を駆使し、クライアントを救うニック&ピート!
「ディフェンダーズ法律解説事務所」ではよりドラマを楽しんでいただけるよう、ドラマ内で登場する法律用語や、ニック&ピートの弁護のテクニック、ポイントについて、詳しく解説していきます。
※本コンテンツはネタバレとなりますので、必ず該当エピソード視聴後にお読みください。
第1話『大胆にいこう』

第1話「大胆にいこう」のポイントは、「陪審制」と「裁判官の説示」と「四種類の殺人罪」です。
皆さんご存知のとおり、アメリカでは裁判手続で一般市民が事実問題について評決を行う陪審制が採られています。
陪審制とは?
- 陪審(jury)は、通常一般の市民から選ばれた12人の陪審員(juror)から構成されます。
- 刑事事件では、陪審が証拠に基づいて「有罪」か「無罪」の評決を下します。
- いずれの評決も陪審員の全員一致が条件となっています。
しかし、陪審員は一般の市民ですから、特に法律に詳しいわけではありません。そこで、今回のポイントの一つである「裁判官の説示」という制度があります。
裁判官の説示とは?
- 刑事陪審裁判では、裁判官が陪審員に対して、事件の概要や有罪・無罪の判断を下す際の一般的注意や事件で問題となる法律事項などを説明することになっています。この裁判官の説明のことを「説示(instruction)」と呼びます。
説示の目的は、陪審裁判における法律適用の適切さを確保することにあります。陪審員は法律に関しては素人ですから、陪審が有罪・無罪の評決をする際には、この裁判官の説示に頼らざるを得ません。裁判官の説示が、陪審の有罪・無罪の評決に大きく影響するのです。
ところで、アメリカの多くの州では、人を殺してしまった場合の犯罪として以下の4種類の殺人罪が定められています。上から順に処罰が重くなります。
四種類の殺人罪とは?
- 第一級謀殺(first degree murder)
あらかじめ計画して人を殺した場合など。 - 第二級謀殺(second degree murder)
人を殺す故意がある場合または重大な身体傷害を加える故意で人を殺してしまった場合など。 - 故意故殺(voluntary manslaughter)
挑発(provocation)による激怒状態(heat of passion)などの、罪を軽減する事情の下で故意に人を殺した場合など。 - 非故意殺(involuntary manslaughter)
人を殺す故意がなく過失により人を殺してしまった場合など。
ニックの描く大胆な作戦!
今回は、ニックがこの「陪審制」と「裁判官の説示」と「四種類の殺人罪」を利用して、とても大胆な作戦に出ます。
当初、裁判官は、陪審員に対して、四種類の殺人罪のうち「第一級謀殺」、「第二級謀殺」、「故意故殺」の三つ犯罪についての該当性を判断するよう説示しました。しかし、その後、陪審から「過ちは犯したけれども殺意がなかった場合はどんな罪を適用したらいいか」との質問が提出されます。その質問から、ニックたちは、陪審が、殺人の故意なく過失によって人を殺してしまった場合である「非故意殺」が成立するとの心証を抱いていることを知ります。ここで、裁判官に「非故意殺」を追加で説示してもらえば、陪審は四種類の殺人罪の中の一番軽い「非故意殺」を選択し、懲役一年程度で済む可能性が極めて高くなります。
しかし、ニックは、あえて裁判官に説示の追加を求めず、逆に裁判官を挑発して怒らせることによって、裁判官に従前の説示内容を維持させ、陪審が「第一級謀殺」、「第二級謀殺」、「故意故殺」の三つの犯罪の成否だけを判断するように仕向けたのです。
その結果、殺人の故意なしとの心証を抱いていた陪審は、「故意」がなければ成立しない「第一級謀殺」、「第二級謀殺」、「故意故殺」のいずれについても無罪の評決を下しました。日本の裁判では到底考えられないような大胆このうえない作戦によって、ニックは見事無罪を勝ち取ったのです。
解説:弁護士 加藤君人
第2話『ローラの不注意』

第2話「ローラの不注意」の見どころは、ローラの重過失をめぐるコール(検察官)とニック(弁護人)の攻防です。
今回のストーリーの流れ
まず、今回のストーリーの流れを法律的な視点から追ってみましょう。
- 司法取引が無視
まず、ローラは弁護人を通じて検察官と保護観察3年間の司法取引をしたにも関わらず、厳罰主義の裁判官により司法取引が無視され(※1) 、ローラに懲役6か月の刑が科されてしまいます。 - 有罪答弁の取消
刑の内容に納得がいかないローラは、審理を再開させ、不注意運転罪に対する有罪答弁(※2)を取り消すことによって、同罪について再度審理をしてもらおうと試みます。
新たな罪での起訴
ところが、ローラは、事故当時携帯で通話中であったことを理由として、検察官によって、不注意運転罪よりも更に重たい自動車運転重過失致死罪で新たに起訴されてしまいます。
| ※1.あくまで、被告人側と検察側との合意であって、裁判官はこれに拘束されません。弁護人の「取引してます」という問いに対して、女性裁判官が「私はしてない」と返事をしたシーンを思い出してみて下さい。なお、この制度は日本では採用されておりません。 ※2.刑事訴訟の罪状認否手続において被告人が「有罪」を認める答弁をいい、有罪の答弁をすると、基本的に実質的な審理なしで有罪を受け入れることになります。ローラが有罪を認めた後に裁判がすぐ閉廷したシーンを思い出してみて下さい。この制度も日本では採用されておりません。 |
重過失をめぐる検察官と弁護人の攻防!
- 今回は、ローラに自動車運転重過失致死罪を構成する重過失(※3)があったかどうかがポイントとなりました。見どころは、この重過失をめぐる検察官と弁護人の攻防です。
検察官の主張
検察官の主張は、次のように整理できます。- [1]ローラは事故に至る瞬間までわき見をしていた。
「目を上げたら被害者がいた」とのローラの供述調書が証拠となっています。 - [2]ローラは事故当時携帯で通話中だった。
ローラの携帯の通話記録を証拠に、ローラが8時13分まで携帯で娘ケイティと通話をし、8時14分に通報したことを証明。そして、その間が1分しかないので、事故当時通話中だったはずだ、という主張になります。
[3]だから、ローラには不注意があり、しかもその度合いは大きく、重過失がある。 - ※おおざっぱに考えると、[1]+[2]→[3]というイメージです。
| ※3.過失とは、注意深い通常人なら、その情況のもとでとったであろうと思われる行為をしなかったことをいい、重過失は、過失に比べて注意義務違反の程度が著しいことをいいます。わずかな注意を払うことを怠り、不注意の度合いが大きい点で、通常の過失と区別されます。 |
ニックの弁護
- これに対するニックの弁護の方法を、この整理に沿って検証してみましょう。
まず、[1]のわき見の事実に関しては、ローラの調書の内容が間違っている(記憶違い、無理矢理供述させたれた等)と主張することは、今回のケースでは難しいでしょう。ニックもわき見をしていたこと自体に関しては争いません。
今回ニックが目をつけたのは、まず[1]から[3]に至るロジックです。
そもそも、わき見をしたというだけで過失(重過失)なのか?
つまり、[1]から必然的に[3]が導かれるのか?
ニックは、自動車運転に関する専門家を証人として呼び、適切な運転とは、周囲や背後にまで気を配りながら運転することだということを、証人に証言させます。
このことによって、わき見をしていたからといって、必ずしも過失(重過失)があったとはいえないということの証明を試みたのです。
ニックは、次に[2]の事実の認定を覆す試みをします。
ニックは、被害者が事故時にもっていた携帯電話のデータから、被害者が8時14分に前進運動をやめたこと、つまり事故が8時14分に発生したことを証明します。
そうすると、ローラが8時13分まで通話をしていたという携帯の通話記録と相まって、ローラは事故時には通話をしていなかったことになります。
裁判所の判断
ニックがこれらを証明し、検察官の[1]+[2]→[3]という主張を覆すことで、裁判所は、ローラに重過失はなく、単に過失があったのみとの判断をし、ローラに軽い不注意運転罪で懲役7日間の刑を下しました。
今回も、まさにニックの執念深い弁護活動が功を奏し、ローラは無事釈放されたのです。
解説:弁護士 髙橋宏行
第3話『2つの嘘』

第3話「2つの嘘」のポイントは、「答弁」と「司法取引」です。司法取引は、答弁取引とも呼ばれますが、ここではより一般的な司法取引という呼び方を使います。
アメリカの刑事訴訟には、答弁(plea)と司法取引(plea bargaining)という制度が存在しています。
答弁(plea)とは?
- 刑事訴訟の罪状認否手続(arraignment)において被告人がする「有罪(guilty)」や「無罪(not guilty)」などの答弁をいいます。
- 被告人が有罪の答弁(guilty plea)をすると、基本的に犯罪事実を認めて公判(trial)なしで有罪を受け入れることになります。
被告人が無罪の答弁(not guilty plea)をすると、犯罪事実を否認して公判で検察側と争うことになります。- 公判(trial)とは、裁判所の面前でなされる事実審理をいい、陪審を付して行われる陪審審理(trial by jury)がその典型例です。
司法取引(plea bargaining)とは?
- 司法取引とは、刑事事件で被告人側と検察側とが交渉して事件の処理について合意することをいいます。
- 司法取引の対象となるのは犯罪事実と量刑です。
- 司法取引は、通常、被告人側が、検察官が起訴した犯罪事実に対して、より軽い罪を認めるまたはその一部について有罪答弁を行うことを申し出て、検察官側がこれを受け入れるという形で行われます(例えば、検察官は被告人を第一級謀殺の犯罪事実で起訴したが、被告人側がこれより軽い第二級謀殺の有罪を認めて検察官側と第二級謀殺で合意するといった場合です)。
司法取引は、有罪答弁と無罪答弁の中間的な存在ですが、司法取引において被告人側は軽い罪や犯罪事実の一部を認めることになりますので、有罪答弁の一種といえます。
公選弁護で大ピンチ!
ピートは、ひょんなきっかけで公選弁護を引き受けるはめになります。ピートの依頼者は武装強盗罪(armed robbery)に問われている黒人青年メイソン・カーターです。メイソンの共犯者としてもう1人の黒人青ジェローム・マッケイも起訴されており、ピートとは別の公選弁護人(※1)がジェロームの弁護を担当しています。メイソンには、妊娠中の婚約者がおり、もうすぐ子どもも生まれる予定です。もしメイソンが刑務所に入るようなことになれば、婚約者や生まれてくる子供は大変な苦労を強いられることになります。
ピートが接見(※2)に訪れた際、メイソンは「妻と子という新しい家族を持とうとしている自分が強盗などするはずがない」と容疑をきっぱりと否認します。また、ピートは、捜査段階での被害者の白人青年の供述を録画した映像を見て、「銃を持った黒人2人に『金を出せ』と脅された」という被害者の供述が嘘であることを確信します。ニックはピートに「陪審は大抵白人好青年の味方だ」と言って、決定的な証拠がないのであれば司法取引するよう勧めますが、ピートはメイソンや婚約者の言葉を信じて検察側との戦いに挑みます。
しかし、ピートやメイソンにピンチが訪れます。メイソンの共犯者として起訴されていたジェロームが検察側との司法取引に応じて懲役9年で合意してしまったのです。共犯者であるジェロームが有罪を認めて懲役9年で司法取引に応じたことを知れば、メイソン裁判の陪審は共犯者であるメイソンも当然有罪であろうと考えるはずです。ピンチに陥ったピートは、裁判所の廊下で出くわした被害者の白人青年に真実を話すよう詰め寄り、それによって被害者の白人青年は法廷で捜査段階における自らの供述は嘘であったと証言します。
しかし、検察は、被害者の白人青年が供述を変えたのはピートに脅されたからであるとして、ピートの証人尋問(※3)を申請します。弁護士資格剥奪の危機に瀕したピートは、証人尋問とメイソンの弁護をニックに託します。
そのような大ピンチに陥ったピートとニックでしたが、依頼者のためであれば自らのキャリアの危機すら顧みないピートの熱意と感動的なニックの最終弁論が陪審員たちの心を動かし、最後には見事無罪を勝ち取るのです。
| ※1.刑事事件の被疑者または被告人が貧困のために自ら弁護人を雇えない場合に、公費によって選任される弁護人。 |
| ※2.拘束されている被疑者・被告人と弁護人などが面会すること。 |
| ※3.証人に証言を求める訴訟手続き。証人に対して口頭で質問をし、証人が経験した事実を述べさせる方法で行う。 |
解説:弁護士 加藤君人
第4話『ベガスの流儀』

第4話「ベガスの流儀」の見どころは、証人を巧みに利用した弁護技術です。
カジノで借用証にサインさせられた事件
モロッカン・カジノで多額の借金を抱え込んだレナードは、返済ができずに拘置所に入れられます。弁護人を務めるピートは、カジノ側がレナードに酒を飲ませて強制的に借用証にサインさせたと主張。さらに、レナードがモロッカン・カジノに来る前に賭けをしていたフロレンティン・カジノがレナードをカジノから締め出したことを挙げ、無謀な賭け方をする客にプレーを続けさせたことはカジノ側の責任だと訴えます。もっとも、このことも決め手とはならず、ピートはいかにして勝つか苦戦していました。
そのような中、ピートは、フロレンティン・カジノから締め出されたレナードを、フロレンティン・カジノのスタッフであるアントニオが、小遣い稼ぎのためにモロッカン・カジノに紹介していた事実を突き止めます。この事実を、アントニオに証言してもらえれば、モロッカン・カジノがレナードを標的としてあえてカモにしていたことを証明でき、モロッカン・カジノに勝てる見込みがでてきます。
しかし、ここでピートは再び困難に直面します。つまり、アントニオが証言をするということは、アントニオがフロレンティン・カジノの客を他のカジノに紹介して小遣い稼ぎをしていることを公にするということです。そのような事態となれば、アントニオはカジノ業界から抹殺され、同業界で仕事を続けることはできなくなるでしょう。
このような危機的状況の中、ピートは策を講じます。
ピートは、アントニオがそのような証言をする予定であることを、裁判官の前で検察側及びモロッカン・カジノ側の弁護士に伝えます。その際、もしレナードが裁判で勝った場合には、この先カジノが、大金を貸した客からそのつど訴えられることになるであろう、とほのめかしたのです。モロッカン・カジノとしては、そのような事態となれば、カジノ経営に大きなダメージを与えます。このようなモロッカン・カジノ側の心理をうまく利用して、事件を和解に持ち込みました。
もし、モロッカン・カジノ側が、アントニオの証言を受けて立つ姿勢で対抗してきたならば、アントニオは自身のリスクを考え、証言を拒否していたと思われます。そうなってはピートの勝ちは困難であったでしょう。ピートの賭けともいえる弁護活動が功を奏し、レナードは無事解放されました。
保険金殺人の容疑をかけられた事件
他方で、自身の経営するレストランに保険金目当てで放火したとして放火罪に問われていたヴィニーは、その後、焼け跡から出入り業者の遺体が見つかったことから殺人罪にも問われることになります。弁護人を務めるニックは、放火をしたのはヴィニーだが、殺人を犯したのは、当初ヴィニーのアリバイを請け合ったアランであることを知ります。しかし、アランが自身で殺人を認める証言などするはずはありません。
もし、アランがヴィニーのアリバイを証言してくれるのであれば、ヴィニーを救うことができますが、いくら弁護活動とはいえ、このような偽証の教唆をすれば、ニックは弁護士資格をはく奪されてしまいます。
このような危機的状況の中、ニックも策を講じます。
ニックは、アランを呼び出した上で、一芝居うち、アランが殺人と脅迫を認める発言を録音します。この録音を検察側に聞かせることによって、アランが殺人の真犯人であることを検察に納得させます。そして、ヴィニーが自身の放火罪を認めることを条件に懲役2年で検察との司法取引に持ち込んだのです。
もしここで検察との司法取引に失敗していたら、ニックは偽証教唆を犯してまでしてアランに証言させることはできなかったでしょう。このような、ニックの賭けが功を奏してニックは、見事ヴィニーを殺人罪から救うこととなったのです。
依頼人のためにハイリスクの賭けを講じて勝利をおさめる。ニックとピートの弁護のスタイルも、まさに「ベガスの流儀」を貫いたものといえるでしょう。
解説:弁護士 髙橋宏行
第5話『甘い罠』

第5話「甘い罠」は、クリント・ハーパー上院議員の殺人容疑がメインのストーリーですが、今回はサブストーリーであるダリアン・サロウェイの重窃盗(grand larceny)、不法接触(assault)及び暴行(battery)容疑について解説したいと思います。
今回のポイントは、「正当防衛」及び「正当な殺人」です。
正当防衛(self-defense)とは?
- アメリカの刑法においても、日本と同様に正当防衛(self-defense)による犯罪の不成立が定められています。
- 正当防衛は、自らの生命・身体を守るために必要な自己防御権で、差し迫った他人の不正な侵害行為によって自己の生命・身体等が危険にさらされた人が、自己防衛のために合理的で必要な実力を行使した場合に認められます。
- 正当防衛における防衛行為は合理的なものでなければならず、致死的実力(deadly force)(※1)の行使が正当防衛と認められるためには、(i)防衛者に過失がない、(ii)防衛者が不正な侵害行為に直面している、(iii)防衛者に差し迫った死または重大な身体傷害の恐れがあるという三つの要件を満たさなければなりません。
- 刑事裁判において正当防衛が認められれば、犯罪は不成立となります。
| ※1.人の死もしくは重大な身体傷害を生じうる、またはそれを発生させることを意図した有形力の行使。 |
正当な殺人(justifiable homicide)とは?
- アメリカの刑法には、正当防衛のほかに、正当な殺人(justifiable homicide)という法理論も存在しています。
- 正当な殺人とは、故意に行われても、殺人行為を行うことが必要ないし義務であるため、正当とされる殺人のことをいいます。死刑の執行や犯罪行為を防ぐための殺人などがこれにあたるとされています。
- 正当防衛状況における殺人も正当な殺人に該当すると解されています。
- 刑事裁判において殺人が正当な殺人であると認められれば、犯罪は不成立となります。
法律オタクの心をくすぐるマニアックな主張!
ピートは、重窃盗罪、不法接触罪及び暴行罪に問われた美女ダリアンの弁護を引き受けます。ダリアンの言い分は、ホテルの集金係をしていた彼女が、料金を払おうとしない男性客に料金を払わせようとその客の財布を掴んだところ、彼がいやらしいことを言いながら彼女に襲い掛かってきたため、逃げようとして彼を蹴ったというものでした。
検察官は、ダリアンが男性客を蹴ったときに履いていたハイヒールの靴が凶器(deadly weapon)にあたるとして、起訴事実に「凶器による暴行」(assault and battery with a deadly weapon)を加えてきました。この検察官の主張に対して、一般的な弁護士であれば、被告人の正当防衛を主張し、裁判では、ダリアンが客をハイヒールで蹴った行為が自己防衛のために合理的で必要な実力行使といえるか、または、致死的実力行使の三要件を満たすかといったあたりが争点となるはずです。しかし、ピートは、担当裁判官のレイエス裁判官が法律オタクであることから、ありきたりな正当防衛の主張ではなく、裁判官のオタク心をくすぐるようなマニアックな主張をすべきと考えました。そこで、ピートは、ダリアンがハイヒールで蹴ったことによって被害者である客が死んでいれば正当な殺人にあたるのであるから、被害者が死なずに怪我をしただけの本件においてもその正当性が考慮されるべきである、それを考慮せずに凶器による暴行罪について有罪とするのは残虐で過酷な刑罰を禁止したアメリカ合衆国憲法修正第8条に違反する、という極めてマニアックな主張を展開しました。ピートのこの作戦は見事に効を奏し、ダリアンの不法接触及び暴行容疑はいずれも棄却され、弁護側は重窃盗罪のみを認めて保護観察30日という非常に有利な司法取引を勝ち得たのです。
ピートとダリアンはその後ベッドを共にしますが、ピートは彼女の部屋で偶然に彼女が窃盗の常習犯である証拠を発見してしまいます。ピートは、ダリアンを警察に引き渡そうと考えてニックに相談を持ちかけますが、ニックは、弁護士には職務上知り得た依頼者の秘密を他に漏らしてはならないという守秘義務があることを理由にピートを止めます。その後、ダリアンは、モレリ&カズマレックに侵入して、ピートに別れを告げるメモを残すとともに、思い出の品として事務所の金庫から全ての現金を持ち去ってしまいます。
結局、ピートは、自己の弁護活動によりダリアンを放免させた結果、彼女の窃盗の被害者になってしまったのです。
解説:弁護士 加藤君人
第6話『公正な裁き』

第6話『公正な裁き』のポイントは、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事際裁判のルールを盾にとったニックの弁護方法です。
刑事裁判の大原則
まず、刑事裁判のスタート地点ともいうべき大原則は、被告人の有罪を立証する責任は検察にあり、被告人(弁護人)は自ら無罪を証明する義務を負っていないということです。
検察は、公判で、起訴事実を合理的疑いの余地なく証明する義務を負っています。この証明を、「合理的疑いを超えた証明」(Proof beyond a reasonable doubt)といいます。逆に言えば、検察の立証に「合理的疑い」が残るときには、「被告人の利益に」、つまり被告人は無罪となるわけです。
「合理的疑い」とは?
- この定義は明確ではなく争いもありますが、一般的には、起訴事実の真実性について揺るぎない確信(an abiding conviction of the truth of the charge)が持てない状態などと説明されています。
少し分かりにくいかもしれません。こう置き換えてみましょう。
民事裁判(※1)の場合には、「証拠の優越」(Preponderance of Evidence)というルールが採られ、絶対に確実だといえる状態を100%だとした場合、片方の言い分が51%以上信用できるという状態にさえなれば、その事実が認められます。つまり、原告・被告のどちらの言い分がより信用できるのか、ということです。
これに対して、刑事裁判(※2)の場合には、検察官の言い分の確実性がおそらく90%かそれ以上にならないと、有罪とはなりません。(※3)つまり、検察側のストーリーと弁護側のストーリーのどちらが信用できるか、という単純な話ではないのです。(※4)
| ※1.私人(法人も含む)の間に生じた紛争を法律的に解決する裁判。 |
| ※2.犯罪者に刑罰を適用する裁判。 |
| ※3.あくまで一つの目安にすぎません。90%といっても、人によって違いますし、普遍的な科学的な基準として設定することは不可能です。 |
| ※4.このルールは、基本的に日本でも採用されています。 |
今回のケース
- ここで、今回のケースを思い出してみましょう。
まず、事案の概要は、違法ギャンブルの賭け金取り立てのため銃を持ってバーに乗り込んだ男2人が、居合わせた警官に強盗と間違われ、男のうち1人が射殺、警官も撃たれる事件に発展します。警官を撃った男は逃亡し、捕まったのは車で待っていた少年ジム。ジムは逃走用運転手だったとして、強盗罪、恐喝罪などに問われます。
この場合、ジム自身が銃を使った取り立て行為や、警官への射撃等に実際加担していなくても、ジムが仲間の男2人と共謀をし、それに基づいて仲間が犯行を行ったのであれば、たとえジムが外で逃走用運転手の役割を果たしたのみであったとしても、共犯として犯罪が成立してしまいます。
ですが、ジムがもし仲間の男2人が銃を使った違法な取り立てをするということを知らなかったとしたらどうでしょう?
この場合、ジムは何ら犯罪の共謀などしていないことになり、ジムに犯罪は成立しないことになります。
検察官と弁護人の攻防
この前提に立って、検察官の主張とジムの弁護人を務めるニックの主張とを見ていきましょう。
- 検察官の主張
まず、検察官の主張をシンプルに考えると、以下のようなロジックになります。
[1]ジムは、仲間の男2人が銃を持ち違法な取り立てに行くことを知っていた。
[2]したがって、ジムは恐喝罪・強盗罪等の全てに加担した。
[3]よって、ジムにはこれらの犯罪につき共犯が成立する。 - ニックの主張
これに対して、ニックは、検察官の主張に対して、次のように反論します。
[1]そもそも、ジムの仲間たちは、ただ単に金を貸して取り返しにきたにすぎないのではないか。銃など出していないのではないか。
[2]仮にジムの仲間たちが強盗まがいの違法な取り立てを行ったとしても、ジムは、単に合法的なローンの回収をするものだと信じており、重罪に関与するとは知らずに単に車で友達を送っただけなのではないか。
[3]このようなアナザーストーリーが成り立ちうる以上、検察官の証明は不十分である。
「疑わしきは被告人の利益に」のルールを盾にとった弁護方法
- 確かに、このようなニックの主張するアナザーストーリーは証明できません。
ですが、ストーリーの中でニックが「幸運なことに、証明する責任は検察側にある」と主張するように、ニックとしては、検察官の主張するストーリーに対して疑いを投げかければ足りるのです。
ニックの主張するようなアナザーストーリーが成り立ちうるということは、検察官の主張に揺るぎない確信が持てない、つまり合理的な疑いが残るのではないか、ということです。
このように、「疑わしきは被告人の利益に」のルールのもとでは、今回のように証拠が乏しいケースにおいては、アナザーストーリーも成り立ちうるということを主張することによって無罪を勝ち取ることも可能なのです。
最終的には、今回のケースは別の理由から司法取引によって解決しましたが、ニックの弁護の方法は、民事裁判とは異なる刑事裁判ならではの特徴が出ていたといえるでしょう。
解説:弁護士 高橋宏行
第7話『黒いベティ』

第7話「黒いベティ」のポイントは、「審理無効」と「司法取引」です。司法取引については、第3話「2つの嘘」の解説でも説明しました。
審理無効(mistrial)とは?
審理無効とは、陪審の評決がなされる前にそれまでの審理が無効と宣言され終了させられることをいいます。- 審理無効は、陪審の評議の結論が出ないとき、陪審員が当事者の一方から供応を受けたとき、陪審員や弁護士が突然死亡したときなどに宣言されます。
- その他、審理無効は、審理過程で一方当事者に不利益となる重大な誤りが認められ、公平な裁判が期待できないと判断される場合にも宣言されます。例えば、法廷で裁判官が本来許容すべきでなかった証言がなされてしまい、陪審への説示 によっても治癒されないと判断される場合などがこれに該当します。
- 被告人の前科や過去の非行歴を犯罪の証拠とすることは、陪審員に不当な偏見を与える恐れが高いため、原則として許されていません(character evidence rule)。従って、陪審裁判の証人尋問で、証人が被告人の前科や過去の非行歴について証言してしまった場合にも、審理無効の原因となり得ます。
司法取引(plea bargaining)とは?
- 司法取引とは、刑事事件で被告人側と検察側とが交渉して事件の処理について合意することをいいます。
- 司法取引の対象となるのは犯罪事実と量刑です。
- 司法取引は、通常、被告人側が、検察官が起訴した犯罪事実に対して、より軽い罪を認めるまたはその一部について有罪答弁を行うことを申し出て、検察官側がこれを受け入れるという形で行われます(例えば、検察官は被告人を第一級謀殺の犯罪事実で起訴したが、被告人側がこれより軽い第二級謀殺の有罪を認めて検察官側と第二級謀殺で合意するといった場合です)。
- 司法取引は、有罪答弁と無罪答弁の中間的な存在ですが、司法取引において被告人側は軽い罪や犯罪事実の一部を認めることになりますので、有罪答弁の一種といえます。
ラスベガスのスター歌手が自宅で窒息死?!
ラスベガスのスター歌手ドウェイン・ダローが自宅で窒息死した事件で、マスコミから「黒いベティ」と呼ばれる内縁の妻ベティ・ジョンソンとその愛人ジェイソン・ニコルズは、大量の銀塊を盗むためにドウェインを殺害したとして第一級謀殺(※1)及び強盗の罪で起訴され、二人は共同被告人として同じ法廷で審理されることとなります。
ニックとピートは、共同被告人の一人であるベティの弁護を引受けることとなります。ベティは、ドウェイン殺害などしておらず、銀塊についても生前ドウェインからもらったものであるとして容疑を否認します。
しかし、共犯者とされるジェイソンには強盗や暴行の前科があり、しかもジェイソンの弁護人ハウエルは、冒頭陳述において「謎の第三者の犯行」などというとんでもない主張を展開する明らかに無能な弁護人です。陪審がジェイソン有罪との心証を持てば、共同被告人であるベティも有罪と判断される可能性が高いと考えたニックとピートは、何とかベティとジェイソンの審理を切り離して、ジェイソンに罪を被せるという作戦に出ます。ところが、一旦、裁判官が二人を共同被告人として始めてしまった審理を、別々に切り離すのは容易ではありません。そこで、ニックとピートは、ジェイソンの無能な弁護人ハウエルに、ジェイソンの前科についての証言を引き出す尋問をさせます。ニックとピートは、被告人の前科についての証言が陪審員に不当な偏見を与える恐れが高いとして審理無効の原因となることを知りつつ、敢えてハウエルに尋問させたのです。その結果、裁判官は審理無効を宣言し、ベティとジェイソンの審理はやり直しとなり、二人の事件は別々に審理されることとなったのです。
ニックとピートの作戦通りベティとジェイソンの審理は分けられることになりましたが、ベティは「ジェイソンに罪を被せる」との弁護方針を潔しとせず、あくまでも真実を武器に闘うと主張します。ベティの決意を受けて、ニックとピートは、ドウェインの死は、事件の夜ヘロインを大量に吸引したドウェインがソファで寝込んでしまい、寝返りをうちクッションにうつぶせになったまま窒息死した事故であるなどと精力的な弁護活動を展開します。
ところが、検察は、審理を切り離されたジェイソンと強盗罪で司法取引し、その見返りにジェイソンにベティの裁判で「ベティがドウェインを殺した」旨証言させます。ベティは、愛する男の裏切りに大変なショックを受け、裁判上も窮地に追い込まれますが、ニックやピートの励ましでなんとか希望を取り戻し、自ら証言台に立ちます。そして、ベティの証言とピートの最終弁論によって、第一級謀殺及び銀塊を盗んだ強盗の罪について無罪を勝ち取るのです。
| ※1.第1話「大胆にいこう」の解説参照。 |
解説:弁護士 加藤君人
第8話『間違えられた男』

第8話『間違えられた男』の見どころは、証拠の評価です。
今回は、新人ラッパー「キラー・ディズ」が2件の殺人罪で起訴されます。ディズとラップ対決をした相手リクリクが直後に射殺され、しかもその相手とは関係のない女性マーガレットまで巻き添えとなったという、2人を被害者とする殺人事件です。ディズは、自分は犯行時犯行現場にいなかったとして、無罪を主張しますが、事件後に自身が銃の引き金を引いたことを自白する内容の歌詞をステージで歌ったことが原因で、警察に逮捕されてしまいます。
歌詞は犯罪の証拠になる?
ここで一つ考えてみましょう。自身の罪を自白する内容の歌を公で歌っただけで、それが自白とみなされ、犯罪の証拠になってしまうのでしょうか?
ディズが、自分が被害者を射殺した内容の歌をステージで歌ったからといって、それだけで犯行の自白とみなしてディズを逮捕するのは、すこし行きすぎだと考える方が多いのではないでしょうか。
もし、歌った歌詞が証拠になり、自白にもなるというのであれば、「保安官を撃った」と歌ったエリック・クラプトンをそれだけで逮捕しなくてはいけなくなってしまうでしょう。そうなれば、あらゆる歌詞に検閲が必要となってしまい、表現の自由が奪われてしまいます。
ディズの弁護人を務めるニックも、ディズがどんな歌を歌おうと、それはただの歌であり、犯罪の証拠にはなり得ないと主張します。
この点に関しては、ニックの言う通り、自身の罪を自白する内容の歌を歌ったとしても、それだけでは犯罪の証拠とはならないでしょう。
では、なぜディズは逮捕されてしまったのでしょうか?
ディズと犯人を結びつける物的証拠
- 犯人:被害者が射殺される直前に「臆病者の嫌な奴」と叫んだ。
- ディズ:「役立たずの嫌な奴」と歌った。
問題は歌詞の中身にあったのです。
具体的には、ディズが歌った中に含まれていた「パンクアス・ビッチ(役立たずの嫌な奴という意味)」という歌詞が、被害者が射殺される直前に犯人が叫んだ言葉である「キャンディアス・ビッチ(臆病者の嫌な奴という意味)」に酷似していたのです。
つまり、こういうことです。
犯行時には自分は現場にはいなかったというディズの弁解がもし本当だとしたら、ディズは被害者が射殺される直前に犯人が叫んだ「臆病者の嫌な奴」という言葉は聞いていないはずです。もしその言葉を聞いていないとしたら、ディズが後日のステージにおいて、偶然にも、犯人が叫んだ言葉とほぼ同じ意味である「役立たずの嫌な奴」と歌うことは考えづらいでしょう。このことから、ディズの歌ったこの歌詞と犯人の叫んだ内容は、まさに犯人とディズが同一人物であることを推認させる証拠となってしまうのです。
このように、刑事裁判においては、犯人の言葉や、容疑者の歌う歌詞が、単体では容疑者と犯人を結びつける証拠とならない場合であっても、それらの複数の証拠が合わさることで容疑者と犯人とを結びつける証拠となることがあります。
証拠の評価を覆すニック
- このような危機的状況の中、ニックは弁護の糸口をつかみます。
ニックは、巻き添えとなって射殺されたと考えられていたマーガレットのニックネームが「キャンディ」であったことを発見します。そのことから、犯行現場で聞かれたとされる言葉「キャンディアス・ビッチ(臆病者の嫌な奴)」は、実は「キャンディ、ユー・ビッチ(キャンディこのビッチの意味)」の間違いなのではないかと考えます。もし、標的が実はリクリクではなく、キャンディであったとすると、ディズが(リクリクが)「役立たずの嫌な奴」と歌ったとしても、ディズが犯人であることを推認させることにはなりません。ニックは、真犯人が他にいるはずだと推測し、キャンディの近辺を調べた結果、真犯人はキャンディの元恋人との確信に至ります。
ニックは、警察と検察に対して、その旨を伝え、キャンディの元恋人に対する捜査を頼みます。結果的に、このニックの弁護が功を奏し、ディズの殺人罪は取り下げられることとなったのです。
このように、同じ証拠であっても、その評価の仕方によって、被疑者(又は被告人)にとって有利にも不利にもなり得ます。 その評価を争うのも、ディフェンダーたる刑事弁護人の重要な役割となるのです。
解説:弁護士 高橋宏行
第9話『ニック・ザ・マジシャン』

第9話「ニック・ザ・マジシャン」では、ビルの建設作業員である夫(トロイ・ウィッテン)を建設現場での転落死により失った妻レイシー・ウィッテンがビルの建設会社であるフェンリー建設を相手に提起した不法死亡訴訟(wrongful death action)(※1)と、ブロガーであるアーロン・エイルスが人気マジシャンであるコリン・ペティグルーのトリックを暴いたとしてその責任を問われた営業秘密保護法(Trade Secrets Act)違反訴訟が取り上げられています。
| ※1.不法死亡法(Wrongful Death Statute)に基づいて、不法行為による死者の近親者が提起する訴訟。 |
ウィッテン対フェンリー建設の不法死亡訴訟
ニックは、レイシーを代理して、フェンリー建設を相手に不法死亡訴訟を提起します。そして、最終的に、フェンリー建設に損害賠償金900万ドルの支払いと建設現場の安全性を即時向上させるための計画書の提出を命じる、ニックたちにとってまさに大勝利の判決を得ます。
ペティグルー対エイルスの営業秘密保護法違反訴訟
ピートは、アーロンを代理して、ペティグルーから提起された営業秘密保護法違反訴訟を担当します。ピートたちは、相手方からアーロンの情報源の開示等を求められますが、最終的にはペティグルーの請求全てを棄却する完全勝訴の判決を得ます。
不法死亡訴訟を提起?!
ニックは、トロイが生前レイシーに語った「あの建設現場は危険だ」というたった一言を端緒に、フェンリー建設相手に不法死亡訴訟を提起し、途中相手方からの500万ドルという多額の和解提案を断り、最終的にフェンリー建設に900万ドルという莫大な金額の損害賠償を命じる勝訴判決を得ます。これだけを聞くと、ニックの弁護はまさにタイトルどおりマジシャンの魔法のように思えます。しかし、ニックは、本件の弁護活動でマジシャンのトリックのような尋問テクニックや魔法のような最終弁論を行ったわけではありません。ニックは、フェンリー建設から送られた部屋一杯の関連書類を丹念に調査して、トロイの事故の一ヶ月前に同じ現場で電気技師が死亡していたこと、その電気技師の未亡人がフェンリー社からの口止め料で豪邸を購入していたこと、事故当時はビルの建設ラッシュで市の建物安全委員会は慢性的な人手不足の状態にあり安全点検を怠っていたこと、そのうえ市が「金を出さないと安全点検を遅らせるか建設中止にする」などと業者を脅して金を巻き上げていたことなどを突き止めます。そのような地道な作業により様々な事実を突き止めていたからこそ、ニックは、フェンリー社のCEOから「建物安全委員会との金のやり取りがトロイ・ウィッテンの死を招く危険な環境を作った」という極めて重要な証言を引き出すことに成功し、大勝利の判決をものにすることができたのです。
ピートが担当することになったアーロンの営業秘密保護法違反事件も、それまでに何人もの弁護士が「勝ち目はない」と言って断った事件でしたが、ピートの弁護活動により見事勝訴に終わります。そういった意味でピートの弁護もまたマジシャンの所業のように思えます。しかし、本件におけるピートも、情報提供者の開示を求める相手方の召喚状に対して法律オタクのレイエス裁判官を前に「ブロガーもジャーナリストでありネバダ州法のジャーナリズム保護条項によって情報源を秘匿できる」との法律的な主張をしたり、現役のマジシャンを訪問してペティグルーのマジックに元ネタがないか確かめたりと様々な戦術を試み、いずれも失敗していました。そのような様々な努力を経た後に、ようやくアーロンの情報源であるマジックショップ経営者ルーベン・チャーターズから決定的な証言を得ることができ劇的勝利を獲得したのです。
私が弁護士になりたてのころ、事務所の先輩弁護士から「訴訟で大切なのは1に準備、2に準備、3に準備だ」と教えられました。今回のニックとピートの弁護はまさにこれを地で行くものです。両事件での魔法のような大勝利は、二人の地道な準備があってはじめて実現したのです。
解説:弁護士 加藤君人
第10話『守りたいもの』

今回の見どころは、"クライアントの利益のみを考えて闘いぬく"という信念を貫いたピートの弁護活動です。
今回の事案
18歳のコーディは、車に製造番号のない銃を積んでいたとしてネバダ州刑法違反の現行犯で逮捕、起訴されます (※1)。有罪となれば、コーディは最長で懲役60年(※2)となってしまいます。その銃は、コーディの祖父ポールが"政府に市民の銃を追跡する権利はない"との独自の信条のもとに販売しているものでしたが、コーディも祖父の教えを信じており、国を相手に闘おうと闘志を沸かせています。
そこで、コーディの弁護人となったピートは次の策を講じます。
| ※1.アメリカでは、製造番号のない銃を所持することは違法となり、刑事罰の対象となります。その趣旨は、銃に製造番号をつけることで、政府が銃を追跡することにより、銃の密売人から犯罪者に銃が渡るのを防ぎ、もって市民の安全を守ることにあります。 ※2.銃1丁につき懲役1年から5年の刑。コーディは銃12丁積んでいたので懲役最長60年という計算になります。なお、日本ではこのような単純な足し算はせず、また、有期懲役は加重されても最長で30年となっています。 |
証拠排除の申し立て
まず、ピートは、警察によるコーディの車内の捜索は違法だったと主張し、かかる違法な捜索によって取得された証拠である銃を排除するよう申し立てます(※3)。
しかし、捜索は正当なものであったと評価され、証拠排除の申し立てはあっさり棄却されてしまいます。
| ※3.合衆国憲法第4修正に反する不合理な捜索・押収により獲得された物件・情報は、原則として、これを被告人に不利な証拠として用いることはできない、という確立した判例があり、これを違法収集証拠排除法則(Exclusionary Rule)といいます。 |
銃権利連合所属のアンバーを利用した司法取引
そこで、ピートは、銃権利連合の法律顧問であるアンバーを上手く利用して司法取引に持ち込もうとします。
つまり、アンバーは地方検察局のトップを支持しておらず、この訴訟に金を出して、コーディが銃規制派の検察官に不当に裁かれている犠牲者だと訴える宣伝に使うことで、法改正を呼びかけようと試みていました。ピートは、このことを上手く利用して、検察官に対し「取引をしろ。さもないと、アンバーをけしかける。そうなれば君の上司が集中砲火を浴びる。」と半ば脅しのように司法取引を持ちかけ、懲役3年という好条件の司法取引をまとめます。
これで一件落着かと思われましたが、驚くことに、ポールと、ポールの信念を忠実に守ってきたコーディは、この司法取引に応じようとしません。
つまり、彼らはこう考えていたのです。
司法取引に応じるということは、有罪を認めることであり、自己の非を認めることである。自分らは、合衆国憲法修正第2条により人民の武装権が保障されており、政府に市民の銃を追跡する権利はない。そのため、製造番号を消すことが違法と規定した法律は憲法に反するものである。憲法に反する暴政を行う政府に対しては、自己の信念を貫いた上でとことん闘う、と。
結果、ポールに忠実なコーディは司法取引に応じない決断をしてしまいます。
連邦検察局からの司法取引の提案を利用した司法取引
せっかくの司法取引のチャンスを逃がし、困り果てている中、ピートは連邦検察局の検事からある提案を受けます。実は、連邦検察局はコーディの祖父のポールを銃の密売容疑で追い続けていたのです。そこで、連邦検察局の検事は、コーディがポールの罪を法廷で証言すれば、起訴を取り下げる旨の取引を持ちかけます。
しかし、ポールの教えを忠実に守ってきたコーディに、ポールを陥れるような証言をさせるわけにはいきません。
ですが、この取引に応じなければ、コーディは長期間刑務所に入らなくてはならなくなってしまいます。
このような葛藤の中、ピートは打開策を考え出します。
ピートは、ポールに対し、証言台で自らの信条を訴えるよう説得しました。その結果ポールは、自身が刑事責任を問われることを覚悟し、政府に市民の銃を追跡する権利がないという信念を法廷で証言した上で、自分が銃に製造番号がないことを知りつつ、コーディに銃の運搬を頼んだことを証言したのです。その結果、ポールが連邦法違反の疑いで逮捕されるのと引き換えに、コーディに対する起訴は取り下げられました。
今回のタイトル『守りたいもの』

今回コーディを救うことになったのは、クライアントの利益のみを考えて闘いぬく、というピートの弁護人としての信念が貫き通されたからでしょう。
まず、ピートがコーディの弁護人として、ポール達と始めて会ったときは、自らの信じる憲法解釈を論じるポールに対して、ピートは、まずはコーディの刑務所行きを避けることを第一に考えるよう、彼らを説得します。
アンバーを利用して好条件の司法取引のチャンスを掴んだときには、ポールが人民の武装権を熱弁するのに対し、ピートはニックとともに、ポールとここで憲法論を問答してもしょうがないことを伝え、崖っぷちに立っているコーディの人生のみを考えるよう説得します。
また、司法取引の手段に利用され、騙されたと憤慨するアンバーに対しても、ピートは、法改正を果たすよりも、刑事弁護人にとっては依頼人の利益が全てだと言い放ちます。
さらに、法廷でピートが合衆国憲法修正第2条の人民の武装権を論じたことが立派で見事だったと褒めるポールに対して、ピートは、「法廷で言ったことは自分の信条とは別であり、自分はただコーディを助けたいだけ。いくら高い理想を仰いでも目の前の人間が見えなきゃ意味がない。自分が見ているのはコーディだけである」ときっぱりと言います。
ポールもコーディもピートも、皆彼らが仕事をしていく上で守りたい信念を貫き通すスタイルを見せました。
『守りたいもの』。
今回は、そういった根本的な仕事のスタイルを、改めて考えなおすきっかけをくれた一話でした。
解説:弁護士 高橋宏行
第11話『憎めない男』』

第11話「憎めない男」のポイントは、「心神喪失」と「限定責任能力」と「酩酊」です。
アメリカの刑法では、心神喪失(insanity)や限定責任能力(diminished capacity)や酩酊(intoxication)等という抗弁(defense)が認められています。因みに、日本の刑法でも、心神喪失者の行為は罰せられず、心神耗弱(しんしんこうじゃく≒限定責任能力)者の行為についてもその刑が減軽されると定められています(※1)。
| ※1.日本国刑法39条(心神喪失及び心神耗弱)「1 心神喪失者の行為は、罰しない。 2 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」 |
心神喪失(insanity)とは?
- 心神喪失とは、精神的疾患または障害により、自分の行為が犯罪であることがわからない、または、法に従って自分の行動を制御できない状態をいいます。
- 被告人が犯罪行為の時点で心神喪失の状態にあったことが認められると、当該被告人の刑事責任能力は否定され無罪となります。
限定責任能力(diminished capacity)とは?
- 限定責任能力とは、精神的疾患または障害により、心神喪失までには至らないものの、刑事責任能力が低減した状態をいいます。
- 限定責任能力は、一定の犯罪においては抗弁となり得ます。
- 一定の犯罪に問われた被告人が犯罪行為の時点で限定責任能力の状態にあったことが認められると、無罪またはその刑が減軽されます。
酩酊(intoxication)とは?
- 酩酊とは、酒類や麻薬等の麻酔作用をもつ物質の摂取による精神的または肉体的能力の障害により、自分の行為が犯罪であることがわからない、または、法に従って自分の行動を制御できない状態をいいます。
- アルコール中毒者や麻薬中毒者など自らが酩酊状態を招いたような場合(voluntary intoxication)には、原則として酩酊は抗弁にならず、酩酊者の行為は犯罪となります。
- これに対して、酒や麻薬であることを知らずに摂取して酩酊状態に陥ったような場合等(involuntary intoxication)には、原則として酩酊も抗弁となり得ます。
元アメフト選手が断酒会で重暴行罪!?

元アメリカンフットボール選手のブレッド・ライリーは、プロを引退してから酒に走り、今は妻子のいる家を出て断酒会に通っています。ところがある日、ブレットは、断酒会の相談役を殴打し、殺人未遂(attempted murder)と重暴行罪(felony battery)の疑いで逮捕されてしまいます。
ブレットの弁護を引き受けることとなったニックとピートは、拘置所に接見(※2)に行きますが、ブレットからは「殴った相手も覚えていない。犯行時の記憶は何もかもぼんやりしている」との説明を受けます。「犯行の夜酒を飲んだか?」とのニックの質問に対し、ブレットは「暴れたのならたぶん飲んだのだろう」と答えます。
自ら招いた酩酊状態は殺人未遂や重暴行罪の抗弁にはならないため、ニックとピートは、再度拘置所にブレットを訪ね、重暴行罪を認めて懲役4年という司法取引(※3)を勧めます。その際、ブレットは、ピートを妻の浮気相手と思い込んで殴りかかり、ニックと看守に取り押さえられます。酒を飲むことなどできない拘置所で我を失いピートに殴り掛かったブレットを見て、ニックは、ブレットの暴力行為は、酒が原因ではなく、アメリカンフットボールを長年プレーしたことにより患った脳の損傷が原因ではないかと考えるに至ります。そこで、ニックとピートは、心神喪失または限定責任能力を主張するべく、ブレットに脳のCTスキャンを撮ることを勧めます。しかし、アメリカンフットボールを心から愛するブレットは、自分の犯罪をアメリカンフットボールのせいにすることを潔しとせず、これを断ります。

それでも、ニックとピートは、医学の専門家を証人に呼び証言してもらうなど様々な立証を試みますが、検察官の効果的な反対尋問に会うなどの反撃にさらされ、なかなか効を奏しません。そこで、ニックとピートは奥の手を使います。ブレットの証人尋問において、ニックは故意にブレットを挑発して、再びピートを妻の浮気相手と思い込ませます。その結果、興奮したブレットは、法廷でピートに掴みかかろうとして廷吏に取り押さえられます。刑事被告人であるブレットが、最も厳粛であるべき法廷の場で、我を忘れて暴力的行為に及ぶ姿を見せることにより、ニックは、ブレットが自分が何をしているかわからず自分の行動を制御できない状態すなわち心神喪失の状態に陥る事実を強烈に印象づけたのです。
ニックのこの作戦は、裁判官の不興を買うことになりますが、陪審には効を奏します。ブレットは犯行時にも心神喪失状態にあったとの心証を抱いた陪審は、殺人未遂と重暴行罪のいずれについても無罪の判決を下したのでした。
| ※2.拘束されている被疑者・被告人と弁護人などが面会すること。 ※3.第3話「2つの嘘」、第7話「黒いベティ」の解説参照。 |
解説:弁護士 加藤君人
第12話『法廷劇場』
第12話「法廷劇場」のポイントは、「証明力」と「証人の弾劾」です。
証明力(probative value)とは?
- 証明力とは、証拠(証人を含みます)が事実を証明できる力のことをいいます。証明力は、証拠価値とも呼ばれ、具体的には証拠の関連性(relevance)と信用性(credibility)のことを指します。
- 原則として証明力の判断は裁判官の自由な判断に任され、裁判官は経験則に従って自由な心証により証明力の大小を判断します。
- 例えば、一般的には、以前から供述内容が一貫している証言の方が、以前に矛盾した供述をしていた場合よりも、証明力が大きいと言えます。また、同じアリバイ証言でも、家族の証言よりも全くの他人の証言の方が、証明力は大きいと通常は考えられます。
証人の弾劾(impeachment of witness)とは?
- 証人の弾劾とは、法廷において証人の信用性を攻撃して、証言の証明力を弱めることをいいます。
- 証人の弾劾の方法としては、[1]証人が以前に公判での証言と一致しない内容の供述をしていたことを明らかにする方法(prior inconsistent statement)、[2]証人が判決結果に予断や利害関係を有しており虚偽の証言をする動機があることを明らかにする方法(bias or interest)、[3]証人に一定の犯罪の前科があることを明らかにする方法(conviction of crime)、[4]証人が過去に詐欺や嘘をつくなどの不正行為を行った具体例を明らかにする方法(specific instance of misconduct)、[5]真実性に関する証人の悪い評判を明らかにする方法(opinion or reputation evidence for truth)などがあります。
- 但し、[3]の「前科」には、少年時代の犯罪歴・非行歴は含まれず、少年時代の犯罪歴・非行歴を明らかにする方法で証人を弾劾することは許されません。
女子大生に対する強姦容疑で逮捕!?
マイク・ウェインは、女子大生ローナ・マキャリンに対する強姦容疑で逮捕されます。ニックは、マイクの母親から依頼され、彼の弁護を引き受けます。
警察によると、被害者のローナ・マキャリンが強姦被害に遭ったのは、犯行当日の午後10時17分から11時14分の間でした。これに対して、マイクは、当日の午後10時まで自宅で母親と過ごし、その後は友人のデジー・ウィリアムズ宅を訪れ10時半から真夜中過ぎまでデジーとテレビゲームをしていたと自らのアリバイを主張しています。
マイクの母親のメイは、当日夜の彼の行動について、彼の供述と一致する供述をしています。しかし、ニックは、母親のアリバイ証言だけでは、被告人である息子を庇っていると思われてしまう、つまり、母親の証言の証明力は小さいと考えたのです。そこで、ニックは、デジーにも証言してもらい、マイクのアリバイを固めようと考えますが、デジーとマイクはお互いが16歳のときに麻薬更生施設で出会い、デジーには18歳(※1)のときの麻薬所持の前科があります。今回のポイントで説明したとおり、証人の弾劾に少年時代の非行歴を使うことはできませんが、成年後の前科であれば弾劾に使われる可能性があり、その意味でデジーの証言の証明力にも問題がないとはいえません。それでも、ニックはデジーに証言してもらおうと彼を訪ねますが、悪いことにデジーはヘロインの過剰摂取で死亡していました。
困り果てたニックは、被害者ローナの証言の信用性を弾劾する作戦に出ます。ローナには、大学在学中に性的暴行の被害を受けたとして他の学生を告発したが、大学の調査で性的暴行はなかったとされ、大学を中退していた事実があったのです。ニックは、ローナの過去のこの不正行為を明らかにして、彼女の証言の信用性を弾劾しようと考えたのです。しかし、今回の強姦に関しては、ローナが被害に遭ったことは警察の検査により明らかです。そのため、リサは、この方法を採ると強姦の被害者であるローナの名誉を著しく傷つけることになってしまうとして、ニックの作戦に反対します。しかし、ニックには、他にマイクを弁護する有効な選択肢はないとして、証人尋問でローナの過去の不正行為を明らかにして彼女の証言の信用性を弾劾します。
その後、強姦事件はマイクの母親メイのアリバイ証言を残すのみとなりますが、証人尋問の直前になって、メイは、リサに対して、実は息子かわいさから今まで嘘をついてきたが、実はマイクにはアリバイなどないことを告白します。それを聞き、ニックは、メイの証人尋問の中止をマイクに提案しますが、マイクは、それならば自分自身で虚偽のアリバイを証言すると言って自ら証言台に向かいます。
ニックは、マイクの嘘を見抜けなかったことに落ち込みますが、最後はマイクに証言台で墓穴を掘らせ、その結果マイクは有罪となります。マイクが有罪となることで、真実や社会正義に反する最悪の結果が生じることを防ぐことができたのです。
| ※1.ネバダ州では18歳以上が成年とされています。 |
解説:弁護士 加藤君人
第13話『数字のドニー』

今回の見どころは、刑事裁判における犯人性の認定です。
17年前、妻殺しの罪に問われて公判直前に行方をくらましたマフィアのお抱え会計士ドニーが、娘のために今こそ無実の証明をしたいとして、街に戻ります。当時は、現場に残された血液と血液型が一致したために有罪はほぼ確定でしたが、今はDNA検査で疑いを晴らせるということで、ドニーに恩のあるニックは弁護を引き受けることになります。
最終的には、陪審員はドニーに対して有罪の評決を下してしまいますが、そもそも刑事裁判においては、法廷にあらわれた事実と証拠をどのように評価して犯人を認定し、評決に至るのでしょうか。今回は、その判断の仕方について解説をしたいと思います。
刑事裁判の大原則
まず、刑事裁判のスタート地点ともいうべき大原則は、被告人の有罪を立証する責任は検察にあり、被告人(弁護人)は自ら無罪を証明する義務を負っていないということです。
そして、検察は、公判で起訴事実を合理的疑いの余地なく証明する義務を負っています。検察の立証に「合理的疑い」が残るときには、被告人は無罪となるわけです。
このルールに関しては、第6話『公正な裁き』の解説をご覧下さい。
このことを念頭に置きつつ、今回の検察側・弁護側の双方の主張・立証を見ていくことにします。
検察側の重視する事実
- 犯行現場に残されていた血液が、ドニーの血液型と一致したこと
まず、この事実をもってドニーが犯人であると推認することはできるでしょうか?
世の中には、血液型が同じ人などいくらでもいます。そうすると、犯行現場に残されていた血液がドニーの血液型と一致するからといって、ドニーが犯人であると判断することはできないでしょう。 - 「犯行現場である家の中から被害者の声がして、ドニーが飛び出してきた。その数時間後にパトカーが来て、被害者の死亡を知った」と隣人ランスが証言したこと
では、こちらはどうでしょう?
この目撃証言の内容を聞くと、この証言さえあればドニーが犯人だと認定できるのではないか、と思いがちです。
もっとも、血液型といった客観的なモノの証拠と異なり、人の証言に関しては、そもそも証人が本当のことを言っているのか、という点が問題となります (※1)。もし証言者が嘘をついていたり、勘違いをしているのであれば、この証言は全く意味をなさないことになります。
したがって、この裁判においては、その隣人ランスの証言の信用性が、ドニーの有罪・無罪を決する重要な争点となります。 - 犯行当時、ドニーが被害者と不仲であったこと
この点については、被害者と不仲であったからといって、殺人まで犯すとは限りませんし、逆に不仲でない人が殺人を犯すこともありますので(赤の他人が押し入った可能性など)、この事実から、ドニーが犯人であると認定することは困難といえます。
以上からすると、ドニーの犯人性(犯人かどうか)を判断するにあたっては、上記隣人ランスの証言の信用性が最大の争点となります。弁護側としても、この証言の信用性を争うことが主な弁護の方針となるわけです。
| ※1.裁判用語では、「証言の信用性」の問題といわれます。 |
弁護側の重視する事実
- 被害者は爪が折れるほど犯人に抵抗していること、および、被害者の爪の内側から第三者のDNAが見つかっていること
まず、被害者は爪が折れるほど犯人に抵抗していたとすると、爪の内側から見つかったDNAは犯人のものである可能性が高いと考えられます。
次に、DNAについて考えてみますと、先ほどの血液とは異なり、DNAは、各人によって異なります。そうすると、被害者の爪の内側から第三者のDNAが見つかったことが、ドニーが犯人ではないことの証明になるのでしょうか? この場合、あり得るストーリーとしては、
[1]ドニー以外の第三者が犯人である、というストーリー以外にも、
[2]ドニーには共犯がおり、被害者の手(爪)がその共犯に接触したにすぎない、または、
[3]ドニーが誰か人を雇って被害者を殺害した。
などが考えられます。そうすると、この事実のみをもってドニーが犯人であることが否定されることにはならないでしょう。
ですが、「家の中から被害者の声がして、ドニーが飛び出してきた・・・。」という上記隣人ランスの目撃証言と組み合わせて考えてみるとどうでしょうか。
仮にランスの証言が真実であれば、[1]ドニー以外の第三者の単独の犯行とは考えがたいし、[2]ランスが当時ドニーしか目撃していないのであれば、ドニーには共犯がいた、というストーリーも考えがたい。また、[3]ドニーが誰か人を雇って被害者を殺害した、というストーリーも考えがたいことになります。
このように、DNAの不一致の事実とランスの証言内容はうまく整合しないことになるので、そうすると、被害者の爪から第三者のDNAが見つかったという事実は、ランスが嘘の証言をしたことを推認させ、ランスの証言の信用性を低下させるものといえるでしょう(※2)。 - ランスが被害者の夫を装って、17年間花を供えていたこと
この事実については、単にランスが被害者と近い間柄にあったことを推認させるにとどまり、この事実のみをもって、ドニーの犯人性が否定されることにはならないでしょう。現に物語の中でも、この内容に関する証人尋問が裁判官によって制限されています。
今回の検察官・弁護人の攻防は、概ね以上のようになります。
もしあなたが陪審員だとして、上の事実のみから今回の事件を判断するとしたら、ドニーを有罪・無罪どちらにしますか?
| ※2.人は嘘をつく可能性がありますが、モノは嘘をつきませんので、裁判官も、人の証言よりも、客観的な証拠を重視して判断します。陪審員にこのような考え方を伝えることも、裁判官の役割といえるでしょう。 |
解説:弁護士 高橋宏行
第14話『ベガスの恋の物語』

第14話「ベガスの恋の物語」の見どころは、供述の信用性の判断です。
今回のストーリー
真面目な青年ダグが、運転していた車から大量のコカインが見つかり密輸の疑いで逮捕されます。ダグによると、メキシコ旅行中に出会ったミアという女性に騙されて、運び人をやらされていたらしい。ダグは、車の中にコカインがあったとは知らなかったと弁解しますが、警察での取調べ中に急性コカイン中毒で倒れてしまいます。そして、帰国途中に車中でコカインの袋を見つけて怖くなり、袋ごと飲み込んだことを白状します。このような状況の中、ダグは、大量のコカイン所持までは知らなかったとして、販売目的によるコカイン所持の罪に対する故意と販売目的の存在を否定し、無罪を主張します。もっとも、車内から大量のコカインが見つかったこと、ダグが取調べ中に急性コカイン中毒で倒れてしまったことからすると、たとえ大量であれ、コカイン所持を知らなかったとの弁解を陪審員に信じてもらうのは、ほぼ不可能です。
そこで、ニックは元麻薬取締官の知人の協力を得て、ミアを見つけ出し、ミアに証言をしてもらうことに成功しました。
供述の信用性の判断

もし、この証言が信用でき真実であれば、ダグは販売目的によるコカイン所持の罪について無罪となりますが、逆に証言が信用できず真実でなければ、ダグの弁解は陪審員に聞き入れてもらえず、ダグは有罪となってしまうでしょう。その意味で、ミアの証言はダグの運命を左右する重要なキーとなっています。
それでは、今回登場するミアのような第三者の供述の信用性は、裁判の中では、どのような基準で判断されているのでしょうか。弁護人や検察官も、やみくもに証人の証言を信じるよう陪審員に呼びかけているわけではありません。一般的には、弁護士や検察官、そして裁判官は以下の視点で第三者の供述の信用性を判断しています。
[1]客観的証拠との整合性
証言内容が、法廷に現れた客観的な証拠と整合しているか、ということです。人間は嘘をつきますが、モノは嘘をつきません。証人が真実を述べているのであれば、供述内容は客観的証拠や動かしがたい客観的事実と一致するはずといえます。
[2]供述に至る経緯
ごく自然な経緯で供述が得られたのか、それとも供述をするよう誘導、示唆されたものかどうかが問題となります。
[3]供述内容の変遷
第三者が真実を述べているのであれば、同一の事項について供述内容が何の合理的理由もなく変遷するなどということはありえません。これは、取調べが何度も行われている場面などで着目されます。
[4]供述内容の合理性
供述内容が経験則や論理法則等に反して不自然、不合理であるかが検討されます。証人が真に体験していないことを供述する場合には、具体性を欠き、不自然・不合理にならざるを得ないからです。
[5]虚偽供述の動機・被告人との利害関係
虚偽の供述を維持するのは容易なことではなく、偽証罪に問われる可能性もありますので、それをするだけの動機、理由、利益がなければならないでしょう。したがって、証人と事件や被告人との関わり合いを見極める必要があります。そして、虚偽供述の動機としては、たとえば、自らの刑事責任を軽くするため、責任を他人に転嫁するため(特に共犯者の場合)、真犯人をかばうため、真犯人からの報復を恐れるため、被告人への報復のため、等があげられます。
今回のケースでは?

他方で、[1]客観的証拠との整合性を考えてみますと、過去のミアの詐欺の手口が今回のダグに対する手口と同じであったと考えられること(はっきり証拠として出てきていませんが)や、ミアが麻薬取締当局から指名手配されていたこと、そして、ダグとミアが知り合ったばかりであること(共犯とは考えがたい)は、ミアの証言の信用性を上げる要素といえます。
なお、ストーリーの中ではありませんでしたが、[4]供述内容の合理性に関しても、現実の裁判では、ミアがダグと会ったときの状況や、どうやってダグを騙したか等に関して、ミアに詳細に証言をしてもらい、それをダグの調書などと突き合わせて、内容に不自然・不合理な点はないかといった検討をしていくのが通常です。
このような検討を経て、今回ミアの証言は信用できると判断され、ニックの最終弁論も成功し、ニックはダグの無罪を無事勝ち取る弁護ができました。
いつもながらに、このニックの無罪を勝ち取る執念には感服します。
解説:弁護士 高橋宏行
第15話『被告人は裁判官』
第15話「被告人は裁判官」のポイントは、「おとり捜査」です。
第15話において、ニックは、被告人であるマックス・ハンター裁判官の犯行は捜査機関の「おとり捜査」によるものであると主張する作戦に出ます。一般に、おとり捜査とは、捜査機関やその協力者が、人に罪を犯すよう働きかけ、対象者が犯罪行為に着手するのを待ってこれを検挙する捜査方法をいいます。映画やテレビドラマでよく見かけるように、おとり捜査は米国で広く行われている捜査方法であり、その全てが違法というわけではありません。しかし、第15話においてニックが主張しようとした「おとり捜査」は、おとり捜査のうち被告人の抗弁となる「entrapment(わな)」を意味しています。以下で「おとり捜査」と言う場合、この「entrapment」の意味で使いますのでその点をご留意ください。
おとり捜査(entrapment)とは?
- おとり捜査(entrapment)とは、捜査機関が犯罪状況を作り上げ、それまで犯罪的傾向のなかった者に犯意を誘発させて、対象者に犯罪を行わせて検挙する捜査方法をいいます。捜査機関にそのような行為があった場合、弁護側は、おとり捜査(entrapment)の抗弁を主張することができます。
- 刑事裁判においておとり捜査(entrapment)の抗弁が認められれば、犯罪は不成立となります。
- しかしながら、おとり捜査(entrapment)の抗弁は、被告人に以前から犯罪的傾向がある場合には成立しないため、裁判においてこの抗弁が認められるのは非常に稀と言われています。
ハンター裁判官逮捕!?
ハンター裁判官は、ストリップ嬢ルーシー・コーデルと一緒にモーテルにいたところを、禁止薬物所持、買春、拳銃不法所持の容疑で逮捕されます。ニックとピートがハンター裁判官の弁護を担当することになりますが、ネバダ州では禁止薬物1錠につき重罪(felony)1つが成立するため、逮捕時に禁止薬物を30錠所持していたハンター裁判官は30の重罪で起訴されてしまいます。各容疑に対するハンター裁判官の言い分は、薬物は自分のものではない、セックスのために金を払っていない、拳銃は登録してあるというものです。ニックは、ハンター裁判官の逮捕、起訴は、検察の選挙のための宣伝目的だとして検察局にどなり込みます。その結果、買春と拳銃不法所持の容疑については、起訴を取り下げさせることに成功します。しかし、禁止薬物所持による30の重罪は、なお起訴されたままです。
ピートは、弁護側の証人になってもらうべくルーシーに接触しますが、ルーシーは既に検察側の証人となっていました。そもそも、ルーシーは、捜査機関によるハンター裁判官の検挙に協力していたのです。ハンター裁判官の事件が起きる約6週間前、ルーシーは、交通違反で車を止められた際、車から禁止薬物が発見されて、禁止薬物所持の容疑で逮捕されました。「自分が有罪となって刑務所に行くことになれば、娘が里子に出されてしまう」と恐れたルーシーは、ハンター裁判官の検挙・訴追に協力するという条件で、保護観察処分という軽い処分で、捜査機関との司法取引に応じたのでした。
そこで、ニックとハンター裁判官は、捜査機関が、ルーシーをおとりにして、ハンター裁判官をわなにかけて犯罪を行わせたとして、おとり捜査(entrapment)の抗弁を主張する作戦を採ります。すなわち、捜査機関は、ルーシーをおとりに使って、それまで犯罪とは無縁であったハンター裁判官に、禁止薬物所持という犯罪を行わせたのであり、これは犯罪成立に対する抗弁となるおとり捜査(entrapment)に当たるので、犯罪は成立しないという主張です。しかし、その後、ルーシーが検察に対して「ハンター裁判官とは8ヶ月前に知り合ってクスリを使うようになった」と証言していることが判明しました。ルーシーの証言によって、ハンター裁判官が8ヶ月前から禁止薬物を使用していたということになれば、ハンター裁判官には以前から犯罪的傾向があったことになり、おとり捜査(entrapment)の抗弁の成立は否定されます。ルーシーのこの証言によって弁護側は窮地に陥りますが、ハンター裁判官とルーシーが実は憎からず思う仲ではないかと推測したニックは、おとり捜査(entrapment)を正面から認めてはいないものの、捜査機関の行き過ぎた捜査や被告人の人柄や人間性などの事情を汲んで弁護側勝訴の判決となったデロリアン・バリー事件の判例を参考に闘う弁護方針を採用します。
ニックは、その弁護方針のもと、ルーシーの反対尋問で、彼女から「約6週間前に逮捕された際、『このままだとお前は刑務所行きとなり、娘は里子に出される』と捜査機関から脅されて、ハンター裁判官を裏切ってわなにかけた、それを気に病んで薬物を大量に摂取し昏睡状態に陥った」との証言を引き出そうとします。しかし、ルーシーがそのような証言をすれば彼女にとって有利な司法取引が取り消されてしまうと懸念したハンター裁判官は、ニックの反対尋問を邪魔して途中で止めさせてしまいます。やはり、ハンター裁判官とルーシーは、お互い憎からず思う仲だったのです。その後、ニックは、ハンター裁判官の尋問でも、裁判官の人柄や人間性、事件の背景といった事情を盛んにアピールします。さらに、ニックは、最終弁論によって、ハンター裁判官の無罪を陪審に十分印象づけたのでした。
最終弁論後に検察側から異例の司法取引を持ちかけられたニックは、弁護側の勝利を確信します。ハンター裁判官も、17年間の裁判官の経験から、評決となれば無罪となると予想します。しかし、ハンター裁判官は、自ら証言台に座ったことで人生観が変わり、裁判官を辞する潮時であるとして、検察側との司法取引に応じ、自ら法壇を降りる決断を下したのでした。
解説:弁護士 加藤君人
第16話『運命の選択』
第16話『運命の選択』の見どころは、ニックたちの採った訴訟戦略です。
乳製品のアレルギーをもつソーニャは、レストランで乳製品を意図せず摂取してしまい、強いアレルギー反応を起こしてしまいます。そこで、すぐに駆け付けた救命士により、エピネフリンという強心剤を2本注射されましたが、救命士が誤って濃度が10倍のエピネフリンを投与してしまったため、ソーニャは心臓に障害を残してしまいます。その後、ニックたちがこの過剰投与の原因を調べると、濃度の異なるエピネフリンが2つともそっくりな瓶に入っていることが判明し、それを製造した製薬会社にも責任があるのではないかと考え始めます。
また、更に調査を続けると、被害者はソーニャの他にもおり、高校生のルークは将来有望でしたが、アレルギーを起こした際に、同じようにエピネフリンを過剰投与されて心停止に陥り、今でも後遺症に苦しんでいます。
ニックたちは、ソーニャとルークの事件を引き受けることになりますが、彼らの採った訴訟戦略が、今回の見どころです。
誰を訴える?
まず訴訟では、誰を訴えるのかという点をはじめに検討しなくてはなりません。では、今回は誰を訴えるのが、依頼人にとってよい選択なのでしょうか。
[1]アレルギー物質を含んだ製品を提供したレストラン
[2]エピネフリンを過剰投与してしまった救命士の所属する救急センター
[3]紛らわしいラベルでエピネフリンを製造した製薬会社
一般的に、複数の人の行為が重なって、被害者に障害等の結果が生じてしまった場合には、結果に寄与した行為者(加害者)たちの過失の割合によって、どの程度損害を賠償するかが決まってきます。
その前提で考えると、まず、[1]レストランに関しては、確かにアレルギーを起こしてしまったというきっかけを作ってしまったことについて過失はありますが、過剰投与の結果起きた後遺症については、過失があるとは言い難いでしょう。そうすると、レストランを訴えるのは得策とはいえません。
これに対して、[2]過剰投与をしてしまった救命士には、適切な薬を選ばず10倍の濃度のエピネフリンを投与してしまった点に過失が認められそうです。他方で、[3]エピネフリンを製造した製薬会社には、どの程度紛らわしい瓶を製造したか、によりますので、必ずしも過失があるとはいいきれません。
そのように考えると、勝訴できる可能性を考えて救急センターを訴えるというのが、一般的な判断でしょう。新人弁護士のリサもそのような方針を立てます。
ニックの作戦
ところが、リサが反対する中、ニックの採った作戦は、これとは異なる大胆なものでした。
まず、ニックは製薬会社を訴える方針を打ち出します。救急センターよりも資力のある製薬会社に勝訴した方が、賠償額が多額になるからです。
また、ニックはソーニャの案件よりも先にルークの案件を先に扱うという作戦に出ます。つまり、二人とも同じく心臓に障害が残っているといっても、外見では健康に見えるソーニャの裁判をするよりも、外見上明らかに後遺症が残っていて悲惨な状態になっているルークの裁判をした方が、陪審員に対して事件の悲惨さをアピールでき、勝訴した場合の賠償額が多額になる。そして、ルークの案件において製薬会社に勝訴すれば、ソーニャの案件においては、裁判をせずして製薬会社と多額の賠償金をもって和解ができると考えたのです。そうすれば、結果的に時間はかかっても、ソーニャの賠償額をつり上げることができるという作戦です。
そして、ニックは過剰投与をしてしまった救命士に製薬会社の作ったエピネフリンの瓶が紛らわしいということを証言してもらえれば、製薬会社に勝訴できると考え、ソーニャにエピネフリンを過剰投与した救命士に対し、救命士を訴えないことを引き換えに製薬会社に対する訴訟で証言をしてもらうよう依頼します。
ここまでは、すべてが順調でした。
大きな誤算
ところが、作戦に従い、ニックたちがルークを代理して製薬会社に対して訴えを提起したところ、証言をしてくれるはずであった救命士が突然証言を拒否してしまいます。実は、ソーニャが自身の事件を後回しにされたことについて、自分が軽くあしらわれているものと思い込み、他の弁護士を雇ってこの救命士を訴えてしまったのです。
この救命士の証言が、勝訴するための重要なキーを握っていたために、ニックたちはピンチに陥ります。
また、ニックたちは、2年前にルークを担当した救命士を探し当て、証言をしてもらう合意を取り付けますが、製薬会社の弁護士の戦略により、この証人申請は裁判所に却下されてしまいます。
数々のミスを乗り越えた勝訴
このような誤算により、圧倒的なネタ不足で苦戦を強いられている中、ニックたちは最後の切り札に出ます。甲殻類アレルギーのピートが法廷でエビを食べ、緊迫した状況下で製薬会社側証人である医師にどちらの薬を使うべきかを選ばせたのです。まんまと間違った瓶を選ばせたニックは、2つのそっくりな瓶の危険性を主張して見事に高額の賠償金を勝ち取りました。
実は、ニックがその医師に見せた2つの瓶はどちらも間違いで、勝因はニックお得意のハッタリでした。
現実世界では、このような方法をマネしてはいけませんが、予想外のピンチに陥っても諦めず最後まで闘いぬく執念は是非見習いたいものです。
解説:弁護士 高橋 宏行
第17話『疑惑の夜』

第17話「疑惑の夜」では、「裁判の公開」について解説します。アメリカと日本の両国において「裁判の公開」が認められていますが、その程度については両国間に差異があります。今回は、日米を比較しながら「裁判の公開」について説明したいと思います。
アメリカにおける裁判の公開
- アメリカ合衆国憲法修正第6条は、刑事裁判における被告人の公開の裁判を受ける権利(right to a public trial)を保障しています。
- アメリカの多くの州の裁判所においては、法令で公開が禁止されるような場合を除き、裁判所(裁判官)の許可を得たうえで裁判手続をテレビで中継することが許されています。(※1)但し、裁判官は、一定の証人や撮影に同意しない関係者の撮影を禁止することができるとしているところが多いようです。
- それどころか、一部の州では、裁判所が法廷での討論の様子をビデオに録画して、ホームページで公開することも行われています。
- アメリカにおいては、裁判関係者の人権にも一定の配慮をしつつ、裁判の公開と手続の透明化を徹底させ、司法の民主化が図られています。
日本における裁判の公開
- 日本国憲法にも、裁判の公開が定められています。(※2)
- しかしながら、日本においては、刑事裁判の写真撮影、録音や放送は、原則として禁止されています。(※3)
- 日本では、被告人が入廷する前の数分間に限り、新聞やテレビなどの報道陣に撮影が許されています(視聴者の皆さんもテレビや新聞で法廷の映像をご覧になったことがあるかと思います)。
- 日本における裁判の公開では、裁判の公正を担保するという目的やプライバシー権など裁判関係者の人権保障が重視され、そのために必要かつ許容される範囲で裁判を公開すればよいと考えられているようです。
| ※1.これに対して、アメリカの連邦裁判所ではテレビ撮影は認められていません。 ※2.日本国憲法第37条「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」 日本国憲法第82条1項「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行う。」 ※3.刑事訴訟規則第215条1項「公判廷における写真の撮影、録音又は放送は、裁判官の許可を得なければ、これをすることができない。但し、特別の定のある場合は、この限りでない。 |
ニックとピートがテレビ中継され賭けの対象に!

ニックとピートの法廷での活躍がテレビ中継され賭けの対象に!
ジョニー・グリーンの経営するフロレンティン・ホテルの最上階スイートルームのプールで、カジノの接客係ライ・シーガーが溺死体で発見されます。ライの死体の首には絞められたようなアザがついていました。ライ殺害容疑で逮捕されたのは、事件当夜、現場となったスイートルームでパーティを主催したグリーンの息子のマイク・グリーンでした。マイクは、ライと肉体関係を持っていたうえ、事件当夜は薬物と酒による酩酊状態にあり、記憶がほとんどありません。
ニックとピートは、グリーンから息子マイクの弁護を依頼されました。ところが、マイクの事件は、豪華ホテルのスイートルームでホテルの美人従業員が殺害され、被告人は現場となったホテル経営者の息子というショッキングかつスキャンダラスな事件だったため、テレビ中継されることになります。さらに、舞台がラスベガスの法廷ということもあり、マイクの事件はカジノで賭けの対象とされてしまうのです。
自分たちが担当する事件がテレビ中継されるということで、ピートは俄然張り切ります。まず、ニックとピートは、ライは殺害されたのではなく、薬物のせいで自ら溺れたと主張します。しかし、検察への匿名の情報提供により、過去にマイクが友人たちとタホ湖に泳ぎに行った際、そのうちの1人である女友達が溺死していたことが明らかになり、ライの死は事故であると主張する作戦は頓挫します。そこで、ニックとピートは、マイクの無罪を勝ち取るためには他の被疑者が必要だとして、ライの事件の翌日から出勤していないホテルの接客係アルヴァレスが真犯人ではないかとの主張を展開します。しかしながら、アルヴァレスが事件の翌日からホテルに出勤していなかったのは、窃盗罪で拘置所に入っていたからだったことがわかり、この作戦も失敗に終わります。次にニックとピートが目をつけたのは、マイクの親友のリッキーでした。リッキーはタホ湖での事故とスイートルームでの事件の双方の現場に居合わせた上、タホ湖の事故について検察に情報提供があった日にマイクの有罪に大金を賭けていたことが発覚したのです。しかし、リッキーは、タホ湖の件について情報提供があったことを検察から聞いてそれを賭けに利用したことは認めたものの、自分が検察に情報提供したことやライの殺害については明確に否定します。この間、マイクの事件の経過はテレビ中継され続け、カジノの賭けのオッズは弁護側圧倒的不利との数字になります。

ニックとピートは、なんとか敗訴した無様な姿をテレビ視聴者に晒さずに済みました。おまけに、オンラインカジノで密かにマイクの無罪に賭けていたピートは、弁護報酬とは別に大金まで手に入れたのです。
解説:弁護士 加藤 君人
第18話「敵は最高のパートナー」

ヨガスタジオでインストラクターのラッセルが殺害され、スタジオ経営者のブレイクとその妻カーリーが殺人の共犯容疑で逮捕されます。ニックとピートは、共同弁護人として、夫婦の弁護をしますが、被害者ラッセルとカーリーの不倫が発覚したことにより、裁判官は夫婦間の利益相反を認めて、ニックらに夫婦のどちらか一方の弁護を辞退するよう指示します。
利益相反とは?
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日本の弁護士法25条1号及び弁護士職務基本規程27条1号によると、弁護士は、「相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」については、職務を行うことができない、とされており、利益相反が生じる事件における弁護活動が禁止されています。ここでいう「相手方」とは、民事・刑事等の事件を問わず、同一事案における事実関係において利害が対立する状態にある当事者というと解釈されています。そして、このようなルールは、アメリカにおいても同様に”Conflict of Interest”として採用されています。
一般的に、共犯者の刑事裁判においては、共犯者の利益が必ずしも一致するわけではなく、それぞれの言い分が食い違ったり、お互いに責任を押し付け合ったりする可能性があるため、共犯者間において利害が対立する状態が生じ得ますので、常に潜在的な利益相反の可能性があります。
今回のケースでは、特にカーリーとラッセルの浮気が発覚したため、裁判官は、夫婦間に利害が対立する状態があることを認め、ニックらが夫婦双方の弁護を引き受けることを禁じたのです。
これに対して、ニックとピートは、それぞれの依頼人を助けるべく、お互いのパートナーシップを解消した上で、ニックはブレイク、ピートはカーリーの弁護を引き受けるという荒業に出ます。
足並みの揃わない弁護活動

まず、今回の事件はブレイクとカーリーがラッセルを殺害したことを直接証明する証拠(たとえば、彼らによる殺害を直接目撃した旨の証言等)がなく、彼らによる殺害を間接的に推測させる証拠(状況証拠といいます)だけで成り立っているため、当初の裁判の流れですと、ブレイクとカーリーが有罪となる可能性はそれほど高くありませんでした。
検察側もそのことを懸念して、ブレイクとカーリーそれぞれに対し、先に殺害を認めた方の罪を免責する内容の司法取引を持ちかけますが、ブレイクとカーリーは、自身が無罪になることを信じて、この司法取引には応じようとしませんでした。
ところが、ヨガスタジオのマネージャーであるカートの証人尋問の場において、ニックはピートの依頼者であるカーリーを不利な状況に陥れ、ピートも同様にブレイクを不利な状況に陥れてしまいます。このことにより、ブレイクとカーリーの間の信頼関係が崩れ、二人は、自身が有罪となることを恐れて司法取引に応じる決断をしてしまいます。
ここで、もしブレイクとカーリーの一方が司法取引に応じてしまったら、先に取引に応じた方の罪が免責され、他方が殺人罪で有罪となってしまいます。そうなってしまうと、夫婦の仲も完全に破壊されてしまいます。ニックとピートも、そのような結果は望まないはずですが、冷静さを失った彼らは自分らが検察側の思うツボにはまりこんでいることに気付いていませんでした。
タッグを組み直して危機を克服
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ニックとピートは、ようやく事態を冷静にとらえ、和解をしてお互いの友情を確認し、一緒に闘うことを決意します。
このような経緯を経て、二人は証拠として出てきた赤毛のウィッグが隣のレストランのトイレから流された可能性に気付き、隣のレストランのオーナーが真犯人であることを突き止めます。その結果、検察側が起訴を取り下げるという形で、ブレイクとカーリーは裁判から解放され、事態は無事全て収束したのでした。
最後に

早くも最終回となってしまいましたが、お互いの友情と「ディフェンダーズ」としての結束を固め合ったニックとピートが、今後も依頼者のために捧げる情熱とスリリングな戦略を駆使した弁護活動で、依頼者の利益を守り続けてくれることを確信しています。
最後までお読み頂き、どうも有難うございました。
解説:弁護士 高橋 宏行





