2024/03/28

【平均値には収まらない知性と行動力!】『IQ160 清掃員モルガンは捜査コンサルタント』見どころ紹介

『アストリッドとラファエル 文書係の事件録』をはじめ、近年日本でもフランス産ドラマの人気が高まってきています。今回ご紹介するのは、2021年4月にフランスで初放送されたときには、フランスのテレビ史上3番目に視聴されたドラマシリーズとなり一躍人気ドラマの仲間入りを果たした『IQ160 清掃員モルガンは捜査コンサルタント』。優れた知性を持つ清掃員モルガンが、捜査資料を眺めていてその矛盾を見つけ出したことをきっかけにコンサルタントとして捜査に参加する一話完結型のミステリードラマです。一話ごとの推理ももちろん見ごたえがあるのですが、主人公モルガンの個性もこのドラマの大きな魅力!今回はシリーズ愛好家の筆者が本作の魅力をまとめてみました。

清掃員から捜査コンサルタントへ!モルガンの「特別な才能」

主人公モルガンは、平均よりもきわめて高い水準の知性を持つ「HIP(High Intellectual Potentialの略)」のひとりであり、警察署の清掃員の仕事で3人の子供たちを養うシングルマザー。ある日清掃の途中に捜査員たちのオフィスで捜査資料を見た彼女は、その証拠の中に矛盾を見つけます。行き詰まっていた捜査の突破口となったモルガンの知見に目を付けた警視正によって、彼女はコンサルタントとして捜査に協力することに。膨大な資料を記憶して重要な情報を見つけ出し、絶えず思考を繰り返すことで新たな糸口にたどり着く警察の仕事はモルガンにとってまさに天職!……といえたらよかったのですが。

公正な捜査を義務づけられている警察組織には、踏むべき手順や守るべきしきたりがあまりにも多く、自由で飛躍しがちなモルガンの行動は、事件解決のカギを見つける大きな助けになるかもしれない反面、捜査そのものを危険にさらすリスクもはらんでいます。しかしモルガンの参加を推し進めたハザン警視正も、モルガンとともに現場に出ることが多いカラデック警視も十分そのリスクは承知の上で、それでもモルガンの「特別な才能」を活かすことを選びました。ドラマを観ているとわかるのですが、彼らはいざモルガンが窮地に立たされた時には、ものすごく頑張って(この言い方はやや安易な気もしますが)彼女のことを守ります。彼女を庇うことで全員横並びに処分される可能性が十分あるにも関わらず、です。

ここで重要なことは、彼らがモルガンへの友情だとか、子供がたくさんいるシングルマザーに対する慈善の心だけで庇っているというわけではないという点です。彼らは、「モルガンの類まれな知性によって、いくつもの事件が解決に至りました。その貢献をもってモルガンは警察にとって重要な存在であり、ここにいてもらいたいのです」とはっきり主張するのです。

モルガンに限らず誰しも自分のできることをやるしかないわけで、世界はそういった「自分のできることの持ち寄りパーティー」でなんとか回っています。モルガンは確かに並外れた知性を持っていますが、その一方でほかの人と足並みをそろえたり、話を合わせたり、言いたいことをぐっと飲みこんで微笑んだりということが苦手です。でもこの警察署にはそれが得意な人が他にいて、モルガンができない代わりにどこかでそれをしてくれています。そのおかげでモルガンは事件の捜査に参加することを(あまり)妨害されず、清掃員でいるよりももう少し多い給料をもらうことができます。

このドラマでは、モルガンの突飛なキャラクターについフォーカスが当たってしまいますが、もう少し後ろに下がって見てみると、さまざまな意見を持つ人間が一緒にやっていくためにはどうすればよいか?という普遍的なテーマが垣間見えるかと思います。結局のところ、同じ人間なんてこの世に一人もいないわけですしね。

【キャスト情報】オドレイ・フルーロが演じる愛すべきモルガン

とはいってもやはりこのドラマの最も魅力的な要素は、キャッチーな主人公モルガンでしょう。やわらかい思考力と鋭い観察力、膨大な量の資料を暗記する記憶力などなど、数多くの才能で事件解決の糸口を見つけていくパワフルなヒロインで、迷宮入りしそうな事件に光明をもたらすのと同じくらい、捜査本部に混沌ももたらす女性ですが、ドラマを観ていると思わず好きにならずにはいられない強烈なキャラクターです。

警察署であっても事件現場であっても自分らしさを忘れない彼女のファッションセンスにはじめは驚かされました。強面な刑事と制服警官ばかりが登場しがちな警察ドラマにおいて、本作のように毎回着飾った綺麗な女性を見ることが少ないというのもあるのですが。ミニスカートにハイヒールという出で立ちで事件現場から事情聴取まで参加する彼女ですが、同じ格好で逃走する犯人の車の前に飛び出すような危険行為もするのでケガをしそうで結構ヒヤヒヤしますね。このドラマのアクションシーンは大抵モルガンのシーンだということを踏まえるとなおさらです。

さて、そんなモルガン役を演じているのは、オドレイ・フルーロ。日本でも感動を呼んだ映画『最強のふたり』(2011)に登場した主人公の秘書役でピンとくる方も多いのではないでしょうか?雇い主である大富豪フィリップの手紙を口述筆記で代筆したり、新たに介護者として雇われたドリスからアプローチを受けてもさらりと流したりとなかなか印象的なキャラクターでした。

人生につまずいた女性たちが一念発起してプロレスデビューする物語を描いた『ママはレスリング・クイーン』(2013)では、息子との関係改善のためプロレスデビューを決意した同僚のために、たまたま同じ時間にスーパーのレジに入っているだけの間柄でありながら一緒にプロレスラーを目指して過酷なトレーニングに参加してくれる女性を熱演!

2018年公開の映画『パリの家族たち』では、大統領としての責務と、母親としての責任との間で揺れ動く女性アンヌを演じました。2022年にネットフリックスで配信された歴史ドラマ『彼女たちの戦火』にも出演しています。ドイツ軍によるフランス侵攻を阻止するために前線へと向かう男性たちの背中を守る女性たちに焦点を当てた物語で、自分のため、そしてほかのだれかのために奔走するたくましい女性マルゲリットを演じていますよ。

並から外れるのはいいこと?悪いこと?最強の答えは「気にしない」こと?

平均よりもかなり高い水準の知性を持つモルガン。しかし、「平均値から外れている」ということは、必ずしもモルガンにとってプラスに働くことばかりではありません。彼女の速すぎる頭の回転や突飛な行動は周囲の人を置き去りにし、結果として彼女自身を孤立させてしまうことも多いです。しかし、犯罪捜査においてはその常人離れした能力こそが求められているのもまた事実。セザン警視正は、ほかの刑事たちと同じように振る舞うことをモルガンに強制させて彼女の「良さ」を殺してしまうよりも、ありのままの彼女でいさせることにしました。そのためにモルガンが、そして捜査本部の面々がピンチに陥ることは一度や二度ではないのですが(そしてそれが原因でケンカすることも)、それでもなんとかうまいことお互いをかばいあい、補い合いながらやっていくしかありません。警察署としては検挙率を維持するためにモルガンの能力が必要で、モルガンには捜査コンサルタントとしての給料が必要だからです。

考え方が違う人間がすぐそばにいるというのはなかなかに大変です。それでも交流を重ねていくうちにお互いのことがわかるようになることもあれば、「こいつのことはなにもわからない」ということがわかるだけで終わるときもあります。そういう時に役に立つかもしれないのが、いい意味で「無関心になる」ことだと思います。考え方が異なろうが、その人がそこにいても「別にいいか」と考えること。

このドラマでいうと、モルガンはすでにこの境地に到達している気がします。彼女は結構気分屋なので、不機嫌になったかと思えばすぐに上機嫌になり、物が壊れるほど怒りをぶつけたかと思えば、喧嘩別れした相手でも翌日にはケロリとした顔で挨拶をしたりします。そして、ほかの人が自分ほど割り切れていないことに対しても「別にいいや」と深く追求したりはしません。彼女にも許せないボーダーラインはあり、そこを越えれば烈火のごとく怒りもしますが、やっぱり相手を許すのも早く、切り替えるのがうまいんですよね。よくも悪くもあまりこだわらない性分なのだと思いますが、はじめのうちはドラマを観ていても驚くかもしれません。筆者はドラマを観始めたころ、「え、え、さっきあんなに怒ってたのに一晩寝たらもう大丈夫なのか」とよく唖然としたのものですが、だんだん慣れてきましたね。

あちこちでこぼこでしんどい、けれどやさしい世界

優れた観察力と並外れた知性で捜査に大きく貢献するモルガンですが、家に帰れば3人の子供を持つシングルマザーでもあります。どちらの任務もやるべきことが山積みですが、モルガンは自分のやり方で限られた24時間を有効活用してなんとか両立させていきます。その結果、学校で子供たちを拾った後に容疑者が通りそうな道で張り込みしたり、赤ちゃんを抱いたまま警察署に出勤してみたりと、周囲の人間からすると無謀に思えるような行動になることも。

しかし、ドラマを観ているとわかってきますが、仕事をしなければお金はもらえず、子供たちを長い時間放置することもできず、別れた元恋人(子供たちの父親)から今の恋人まで頼れる者は全部頼っても、それでも無茶をやらなければどうにもならないことが出てきてしまいます。確かにモルガンは多くの部分で「常識的に考えたらこう」が通用しない女性であり、この人が近くにいたら毎日大変だろうということは想像に難くないのですが、それでもほかのすべての人と同じように彼女には彼女なりの考えがあり、自分なりに導いた解決策に従って行動しています。

このドラマの良いところは、モルガンのそうした破天荒な行動を横で見ている周囲の人間が、いろいろな思惑はありながらもそれとなく彼女の手助けをしているところです。個人的には「普通」か「普通じゃないか」という考えは、「どのぐらい平均値(その人と同じ行動をとる人はどの程度いるのか)に近いか」ということだと思っているのですが、モルガンはどの場合においても多くの場合平均値から大きく離れた行動をとります。このドラマの世界では、モルガンのその突飛な行動こそが捜査を大きく進める限り、それ以外のことは(ほとんど)目をつぶる、という構図が完成されており、モルガンが自分の仕事に対して一定の信頼と実績を勝ち取った証拠でもあります。

最後に

「並外れている」というのは往々にして苦労が絶えない個性ですが、モルガンは周りからどう思われるかを気にしすぎて自分の才能を鈍らせる必要はない、というスタンスで生きています。それでしっかり災難に見舞われているあたりフランスのドラマもなかなか容赦がないなと思いますが、観ていると思わずモルガンの肩を持ちたくなってくる、そんな魅力あふれるストーリーのミステリードラマです。2024年にはフランスでシーズン4の放送も予定されている人気ぶりですので、気になった方はぜひ本編をチェックしてみてください!

(文:うりまる)

ミステリーチャンネルでは、シーズン3までを放送中!詳しい放送情報は、番組公式サイト、放送スケジュールでご確認ください。

「IQ160清掃員モルガンは捜査コンサルタント」番組公式サイト

<ミステリーチャンネルについて>
世界各国の上質なドラマをお届けする日本唯一のミステリー専門チャンネル。「名探偵ポワロ」「ミス・マープル」「シャーロック・ホームズの冒険」「ヴェラ~信念の女警部~」「SHERLOCK シャーロック」など英国の本格ミステリーをはじめ、「アストリッドとラファエル 文書係の事件録」などのヨーロッパの話題作や「刑事コロンボ」といった名作、人気小説が原作の日本のミステリーまで、選りすぐりのドラマが集結!ここでしか見られない独占放送の最新作も続々オンエア!

<ミステリーチャンネルご視聴方法>
ミステリーチャンネルは、スカパー!、J:COM、ひかりTV、auひかり、全国のケーブルテレビでご視聴頂けます。
詳しい視聴方法はこちら
スカパー!でのご視聴を希望の場合、ご自宅のテレビでCS161/QVCを選局してスカパー!が映ることをご確認ください。映ることが確認できましたら、B-CASカードをご準備頂き、WEBで簡単に加入お申し込みができます。お申し込み後は約30分でご視聴可能になります。
スカパー!新規ご加入はこちら

<ご視聴に関するお問い合わせはこちら>
ミステリーチャンネルカスタマーセンター
0570-002-316 (一部IP電話等 03-4334-7627)
受付時間 10:00 - 20:00(年中無休)

 

© Septembre Productions / Itinéraire Productions / TF1 / Be-Films / RTBF (Télévision Belge) MMXXII © PHILIPPE LE ROUX – THIBAUT GRABHERR / SEPTEMBREPRODUCTIONS / TF1 ©Septembre Productions/Itinéraire Productions/TF1/Be-FILMS/RTBF (Télévision belge) MMXXII
Dépôt légal 2022

 

うりまる
2017年ごろから海外ドラマ・映画について執筆中。ミステリー作品ならなんでも好きですが、特にまったりとした(COZYな)ミステリーが好きです。